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rubyの好きなこと日記

〜小説〜サンタの約束。NO4

 
 「よし!ヨシュア。今日は早く帰って来るんだぞ。出かけるからな!」

 朝食の目玉焼きをお皿に乗せながら、
いきなりサンタジィジが言ったので、僕はきょろきょろとしてしまった。

 「もしかして、僕に言った??」

 何かの聞き間違えじゃあないかと思ったんだ。

 「ここにはお前しかおらんだろう!お前の本当の名はヨシュアなんじゃからな!
だいたい、堅信にそう言ったのに、勝手にヨシアキにしてしまったんだから間違った名前なんじゃ」

 いきなり自分の名前が間違っていると言われてもピンと来ないが、ヨシュアという名もかっこいいなあ。

 「突然な。結婚したって言った後に、子供が生まれたって言うんだぞ。急にだぞ!
しかも電話口でだ。だからその子供にヨシュアと名付けろと言ったんじゃ。
電話口だから聞き間違ったんだろうか?」

 なるほど...。父さんは半分だけジィジの話を聞いたわけだ。
 僕は目玉焼きをほおばりながら頷いた。

 「ヨシュアの由来を聞きたくないか?」

 サンタジィジの目が光った。これは何か面白そうな予感。
僕はごくんと目玉焼きを飲み込んだ。

 「知りたい。知りたい。ヨシュアってかっこいい名前だもん。正義の味方の名前みたいだ」

 ほっほっほ。と、本物のサンタさんみたいな高笑いをすると、
サンタジィジは人さし指を立て、僕の目の前で左右に振った。

 「それは帰ってからのお楽しみじゃ。幼稚園から寄り道せずに真っ直ぐに帰って来るんだぞ!
そしたら由来を教えてしんぜようぞ!それに、楽しいとこに出かけるのじゃからな」

 そう言って僕にウインクした。
 
 今日は幼稚園初登校の日。
本当は行きたくないんだけど、父さんが怒るからしょうがない。
朝から暗くなっていた僕の心にふつふつと好奇心が湧いて出てきた。
まったく、サンタジィジは楽しいの天才!遊びの神様だ。

 「うん!僕なるたけ早く帰ってくるよ。でも、どこに出かけるの?」

 「ふふふ。それも内緒じゃよ。秘密は楽しいものじゃからな。
あ。それから父さんには言うんじゃあないぞ。これから出かけることも、ヨシュアのことも。
二人だけの秘密だからな!」

 僕は今からワクワクしてきた。白百合幼稚園初登校の不安より、帰ってきてからの秘密の行動の事が気にかかって、何かとんでもないいたずらを思いついちゃったみたいな気持ちになっていた。
ジィジと一緒にするいたずら。父さんの知らないいたずら。
そして僕の名前の秘密...。

 ブロロロ。車のエンジン音が聞こえ、ジャリジャリと砂利の踏まれる音。バタンと扉の閉まる音が聞こえた。
 父さんだ。 

 「良明!仕度は出来ているか?」

 家の外から大きな声が聞こえた。

 「は~~い。今行きます」

 僕は返事をすると、急いでナプキンで口をぬぐい、サンタジィジにピースサインをしてから玄関に向かった。
家を出るとき、ジィジが声をかけてきた。

 「ヨシュア。約束じゃからな。待ってるからな!」

 僕は返事の替りに後ろ向きのまま右手を挙げた。そうして振り向かずに玄関の扉を開け出て行った。
ヒーローってクールなもんさ!

 「良明。早くしろ。おくれるぞ!」

 父が扉を開けて待っていたので、助手席に飛び込んだ。
車が発進してから振り返ると、サンタジィジは玄関先まで出てきて手を振っていた。
僕も思い切り振りかえした。ちょっと涙が出そうだった。

 「良明...。父さんなんか言ってたか?」

 運転しながら父が聞いた。

 「ううん。何にも」

 僕は生まれて初めて嘘をついた。男と男の約束だからね。

 
 僕はその日。帰って来るまでずっと上の空だった。
案の定、白百合幼稚園はつまらなかった。型通りのお遊戯。くだらない勉強。
何も考えていない子供達。やけに甲高い声の先生。
 ただ一つ僕の興味を引いたのは、書棚にある童話や絵本だけだった。
僕は本の中でだけ自由な子供だった。
 実際は親の言うなりのか弱い子供だったけど、本の中とジィジの前でだけ、僕は本当に生きていた。
幼稚園が終わる1時半になるまで、僕はひたすら本の中に埋没していた。

.......................続く。...........................

                     RUBY.

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by emeraldm | 2011-11-10 16:26 | 小説-サンタの約束

突然の乳癌ステージ4の告知から人生計画が変わってしまったRUBYのブログです。少しでも誰かの役に立てるように、闘病生活を綴ります。

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