2011年 10月 01日
~小説。~「秋の夜に、すすきの原で。。。」NO8
二人は川沿いの山道を歩いていました。
河原の側は土手になり、その土手には獣道が続いています。
木々の間からは川の流れが見え、川音が心地よく聞こえていました。
時々気持ちの良い風が吹き、天気は晴天で、りんはこのままずっとこうして歩いていたいと思いました。
---お兄ちゃんと、ずっといたいな....。-----
かなり歩いて、りんが疲れ果てた頃。
前を歩いているゴンが急に背中を向けたまま、りんに言いました。
「お前の母ちゃん。何の病気なんだい?」
りんは、今までの幸せな気持ちが重く沈んで行くのを感じました。
「分かんない。時々、血を吐くんだ」
ゴンは後ろを振り向きました。
「医者には見せたのか?人間には医者って言う病気を治す者がいるって、婆ちゃん言ってたぞ!」
「ううん。あたいん家、貧乏だから来てくれないって。父ちゃんが....。」
「りんに兄弟はいないのか?」
りんは小さく首を振りました。
「父ちゃん。いい子で待ってろって、金作って、すぐに戻ってくるから待ってろって。
母ちゃん。苦しがって父ちゃん呼ぶし、あたい、あたいどうしていいか分かんなくなって...。」
「それで山に父ちゃん探しに来たんだね」
「うん!」
ゴンは泣きながら山道を駆け出してくるおかっぱの小さな女の子を思い浮かべました。
「お父ちゃーん!お父ちゃーん!!」
何度叫んだ事でしょう。転んだりあちこち擦りむいたりしながら、あのすすきの原で迷い、そのうち疲れ切って眠ってしまった。
きっと、気が付いたら夜になっていて、心細くて、怖くって一人膝を抱えて泣いている女の子....。その子をゴンが見つけたのです。
りんはもう疲れたようです。歩調が段々と弱弱しくなっているのを感じ、ゴンは少し休む事にしました。
「りん。ここに湧水があるよ。少し休もう」
山道の崖には山から浸み出した湧水が溜まっている場所があり、そこから又、土手の下の川に水が流れて行くのでしょう。そんな場所がいくつもありました。
岩をくりぬいて手桶の形にしたような場所に、冷たい清水が溜まっていて、ゴンとりんは腹ばいになって冷たい水をごくごくと飲みました。
りんはとにかくゴンの真似を何でもして見ました。
ゴンはこのままこの子を返したくないように思い始めていました。
---でも、この子の母ちゃんはこの子の帰りを待っているんだろうな...。---
「りん!あと半時も行けば下の村に出る。それまでお兄ちゃんがおぶってやるよ」
りんは嬉しそうにゴンの背中に飛びつきました。
暖かくて、頼もしくて、やさしくて。すすきの原の匂いのする背中。
「りんね。りん。お兄ちゃんのことが大すき!」
背中に柔らかく重みのある子供の体重をしっかりと感じながら、妹ってこんな感じなのかな?とゴンは思いました。
二人の幸せな時は過ぎ。やがて麓に開けた場所が見え始めました。
遠くで子供たちの声が聞こえます。
「りん。もう村に着いたよ。これでお別れだ。早く母ちゃんの所に帰っておやり!」
りんはゴンの背中で首に手を回したまま、降りようとしません。
「お兄ちゃんも一緒に来て...。」
「駄目だ!おいらは山に帰らなきゃいけない。母ちゃんが治ったら又すすきの原に遊びにおいで!」
いくら誘ってもゴンが山から下りようとしないので、りんはしぶしぶゴンの背中を離れ、一人歩き出しました。
何回も何回も振り返ってはゴンを見て、又歩き始めます。
「ほらっ!早く行けよ!!母ちゃんが待ってるぞ!行け!!」
ゴンは怖い顔をして、りんを追い立てました。
でも本当は、心がとっても痛いのでした。
..............続く。................
河原の側は土手になり、その土手には獣道が続いています。
木々の間からは川の流れが見え、川音が心地よく聞こえていました。
時々気持ちの良い風が吹き、天気は晴天で、りんはこのままずっとこうして歩いていたいと思いました。
---お兄ちゃんと、ずっといたいな....。-----
かなり歩いて、りんが疲れ果てた頃。
前を歩いているゴンが急に背中を向けたまま、りんに言いました。
「お前の母ちゃん。何の病気なんだい?」
りんは、今までの幸せな気持ちが重く沈んで行くのを感じました。
「分かんない。時々、血を吐くんだ」
ゴンは後ろを振り向きました。
「医者には見せたのか?人間には医者って言う病気を治す者がいるって、婆ちゃん言ってたぞ!」
「ううん。あたいん家、貧乏だから来てくれないって。父ちゃんが....。」
「りんに兄弟はいないのか?」
りんは小さく首を振りました。
「父ちゃん。いい子で待ってろって、金作って、すぐに戻ってくるから待ってろって。
母ちゃん。苦しがって父ちゃん呼ぶし、あたい、あたいどうしていいか分かんなくなって...。」
「それで山に父ちゃん探しに来たんだね」
「うん!」
ゴンは泣きながら山道を駆け出してくるおかっぱの小さな女の子を思い浮かべました。
「お父ちゃーん!お父ちゃーん!!」
何度叫んだ事でしょう。転んだりあちこち擦りむいたりしながら、あのすすきの原で迷い、そのうち疲れ切って眠ってしまった。
きっと、気が付いたら夜になっていて、心細くて、怖くって一人膝を抱えて泣いている女の子....。その子をゴンが見つけたのです。
りんはもう疲れたようです。歩調が段々と弱弱しくなっているのを感じ、ゴンは少し休む事にしました。
「りん。ここに湧水があるよ。少し休もう」
山道の崖には山から浸み出した湧水が溜まっている場所があり、そこから又、土手の下の川に水が流れて行くのでしょう。そんな場所がいくつもありました。
岩をくりぬいて手桶の形にしたような場所に、冷たい清水が溜まっていて、ゴンとりんは腹ばいになって冷たい水をごくごくと飲みました。
りんはとにかくゴンの真似を何でもして見ました。
ゴンはこのままこの子を返したくないように思い始めていました。
---でも、この子の母ちゃんはこの子の帰りを待っているんだろうな...。---
「りん!あと半時も行けば下の村に出る。それまでお兄ちゃんがおぶってやるよ」
りんは嬉しそうにゴンの背中に飛びつきました。
暖かくて、頼もしくて、やさしくて。すすきの原の匂いのする背中。
「りんね。りん。お兄ちゃんのことが大すき!」
背中に柔らかく重みのある子供の体重をしっかりと感じながら、妹ってこんな感じなのかな?とゴンは思いました。
二人の幸せな時は過ぎ。やがて麓に開けた場所が見え始めました。
遠くで子供たちの声が聞こえます。
「りん。もう村に着いたよ。これでお別れだ。早く母ちゃんの所に帰っておやり!」
りんはゴンの背中で首に手を回したまま、降りようとしません。
「お兄ちゃんも一緒に来て...。」
「駄目だ!おいらは山に帰らなきゃいけない。母ちゃんが治ったら又すすきの原に遊びにおいで!」
いくら誘ってもゴンが山から下りようとしないので、りんはしぶしぶゴンの背中を離れ、一人歩き出しました。
何回も何回も振り返ってはゴンを見て、又歩き始めます。
「ほらっ!早く行けよ!!母ちゃんが待ってるぞ!行け!!」
ゴンは怖い顔をして、りんを追い立てました。
でも本当は、心がとっても痛いのでした。
..............続く。................
by emeraldm
| 2011-10-01 14:38
| 小説-秋の夜に、すすきの原で。