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rubyの好きなこと日記

NO。31......ラシャの秘密......

 
 ヴォレの部屋を出ると、蒼白な顔をしているオムファムに、ジュダ大臣が声を掛けました。
「オムファム様? お加減はいかがですか? どこか具合が悪いのでしょうか? 」
「いや、ジュダよ。少し疲れただけじゃ。お前は先に生贄の間に行って、準備をしておれ。私は後から行こう」
「はい。オムファム様......」
 ジュダ大臣は頭を軽く下げてから、生贄の間へと歩いて行きました。
 
 オムファムは反対側の通路を通り、突き当りにある長い階段を昇って行きました。階段には窓が無く、黒一色で、灯には小人の手の骨を使った行灯に暗い灯が灯るだけです。
 何度も折れ曲がり、踊り場に来るたびにオムファムは呪文を唱えました。
 踊り場にはそれぞれ、古いランプや花瓶.金貨.鉱物.鍋.ヤカン.パイプ.その他もろもろの装飾品としては意味の分からぬ品物が置いてあり、おそらくそれらの品に掛かっている魔法が、階段を守っているのでしょう。
 本当に具合が悪いのか? 心ここにあらずだったのか? オムファムは一度だけ3回目の踊り場で呪文を忘れ、古いジョウロの先から出てきた沢山の毒虫に襲われるところでした。
 オムファムは急いで呪文を唱え、杖で虫の群れを払い、事なきを得ました。
 あの毒虫に刺されたら体が腐って死んでしまいます。
 4回目の踊り場を通り抜けると、短い階段の先に簡素な木の扉がありました。
 その入り口付近には大きな酒樽が1つ置いてあります。
 オムファムが近づくとその酒樽の上に狼男の生首が現れました。怒って鼻に皺を寄せ、歯をむき出しにしています。涎か血か分からないもので口をぬらし、ヴルルルとうなっている様はこの世の者とも思えません。
 近づいたら必ず食い殺す! と暗黙に言っているようです。
 「ノワール! 開けておくれ」
 オムファムがそういうと、その生首の怪物が、ポン! と音を立て、黒い大蛇に変わりました。
 扉はひとりでにギーッと開きました。
 「ノワール! あとで留守番のご褒美をたっぷりやろうな。おー。かわいい良い子じゃな! 」
 オムファムは部屋に入る前に大蛇のノワールの頭をなぜ、愛しそうに話しかけました。
 蛇は緑色の目を細めてされるがままでした。この蛇はオムファムの子供の頃からのペットです。
 唯一の友と言ってもいい者でした。
 部屋に入ると、そこは眩しく光あふれる透明な硝子の部屋でした。光が部屋を満たしています。
 ここは建物の最上階のようです。天井と壁は硝子のドームで夜空が見えますが、床下から白い光があふれ出し、すりガラスの床をぼおっと輝かせていました。
 部屋はオムファムの私室のようで、布張りのソファアやベット。机や小物など生活に必要なファブリック類が揃えられ、その全てが白一色に統一されていました。
 オムファムは疲れたように一人用のソファアに倒れこみ、ふーっと息を吐きました。
 この部屋では彼は完全に1人でした。
 この部屋は主にじゃまをされぬように作った完璧な魔法の空間です。
 影を支配するオプスキュリテは光を極端に嫌います。この部屋にいる時だけ、オムファムは自分でいれたのです。
 床下の光は白い魔法で作られていました。その光を手に入れるためにどんなに苦労したことか? オムファムは考え深げに床下を眺めた後、サイドテーブルにおいてあるシンプルな白い額縁の小さな写真が入れてある写真立を取りました。その写真には、2人の人が写っていました。
 水色小花柄のワンピースを着たかわいらしい15歳位の女の子。彼女の瞳は薄紫で、ふわふわとした巻き毛をふんわりと右肩にたらし軽く青いリボンで結んでいました。髪は薄い金色の甘い砂糖菓子のような女の子です。
左手に、青白い顔の、やせて小柄な男の子。2人とも幸せそうに笑っていました。
ただ、女の子の右手のすぐ傍には誰かが立っていたらしく、足の先を残し、その部分は不自然に切り取られていました。
「ヴィオレット......」
 オムファムは女の子の頬の辺りを懐かしそうに撫でました。
「ヴィオレット......。君は私といるべきだった。あの男より私が優れていると、あの時ちゃんと示しておけば、君は今頃......ああ。でも、やっと会えるよ。私が力を手に入れればね! 」
 オムファムはおもむろに立ち上がり、入ってきた扉に向かいました。
 木の扉には等身大の鏡が付いていました。
「ヴィオレット。醜いこの姿を嫌うかい? この体の一部は君のものだ。もうすぐ君を手に入れるよ。その為には、誰にも知られてはならない。たとえ主様だとしても......。
不老不死だって? 君がいなければ何の意味があろう。私の本当の目的は蘇り......。
死者の復活よ!」
 
--ラシャ! ラシャ? 泣いているの? 寂しいの? 大丈夫私がついているわ。
あの子達なんか、私がやっつけてあげるわよ! --

--ラシャ! ほら。クリスマスプレゼントよ! 貴方のためにママに買っといてもらったのよ。魔法生物の最新刊よ。あなた好きだったでしょ。 --

--ラシャ? ノワールがいないの? 心配だわ。一緒に探しましょう。 --

--ラシャ。私。卒業したら彼と結婚するのよ。結婚式には来てくれるでしょう? --

 そして、彼女を見た最後の日......。
 彼女はこの世で一番美しく、最高の笑顔の花嫁になり、私の前を通り過ぎた......。
 彼女の隣には、あのデブで小ざかしいルミエール。
 
「君は間違っていたんだよ、ヴィオレット! 隣には私がいるべきだったんだ。
私と一緒になっていれば、あるいは君は死ななかったかもしれない。
君の骨を地中から取り出したのは、君がかわいがってくれたノワールだよ。
前回の実験は大失敗だった。
蘇りどころか、君の体の一部が私に混ざり、継ぎはぎのオムファム(男女)が誕生した。
優しい君は笑ってくれるかい?それとも醜い我姿に目をそむけるかな?
とにかく、君の魂は戻ってこなかった。
まあ、実験の失敗のせいで、蘇りの法を研究していたことは隠されたが......。
地獄のようなモンストル監獄で出会った神と名乗る者にも私は嘘をついた。
オプスキュリテと名乗る神は私に憑依し、私を通じて恐怖を食らった。
けれど、私の嘘は見抜けなかった......。
私は心の奥に鍵の付いた箱を持ったのだ。この箱だけは何者も開ける事は出来ない。
たとえ神でも......。その箱の鍵は私の命で守られているからね。
闇の神が全てを知るには私を殺さなければならない。
しかし、先ほどオプスキュリテはそれに触りそうになった。隠された小箱に......。
もうすぐオプスキュリテは箱を見つけ、私を全支配するだろう。
その前に、あのヴォレに移してしまわなければね。
力を利用するのだ。太古の力を。
全ては君の為。君は今度こそ蘇り、私1人のものになるのだ。
今夜全ての駒がそろったんだよ。
君の夫。君が死をかけて産んだ君の息子。そして、竜の珠。
憎悪こそ我力だ。
見ているがいい。ヴィオレット! 」
 
 オムファムは鏡に向かい杖を振るいました。
 するとオムファムの濃い化粧が全て無くなり、薄紫の瞳の寂しそうな女の顔に変わりました。
 その顔はメテオールにとてもよく似ていました。

..................続く。........................

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by emeraldm | 2010-09-15 13:16 | 小説- 赤髪のメテオール(2)

突然の乳癌ステージ4の告知から人生計画が変わってしまったRUBYのブログです。少しでも誰かの役に立てるように、闘病生活を綴ります。

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