2010年 09月 07日
NO24。......魔法使いの眠り......
メテオールは考えました。黒い魔術のことは教科書通りの知識しかありません。
このまま、父達を待つか?それとも自分ひとりで先に立ち向かうべきか?
いずれにしろ今夜、やつらはクラージュを迎えに城に訪れるでしょう。
準備をするのなら今日の夕方までしかありません。
「思いつくのは、防呪の法しかないな。この呪文は先にかけなければならないし、防ぐことしか出来ない。
何かいい方法はないものかな? 呪い返しの法は有効だが許可がいるし......」
「仕方が無いな。又夢に聞いてみるか? クラージュ様のいる部屋では無理だから、プレーリーの部屋を貸してもらおう」
メテオールは勝手にプレーリーの部屋を開け鍵をかけてから、魔方陣を描き出しました。
魔方陣は一瞬で消えるので、プレーリーも文句を言うことはないでしょう。
メテオールは魔方陣の中に入ると、エネルギー補給に、星を1つ飲み込み、そして、魔法使いの眠りと呼ばれる瞑想に落ちて行きました。
-- そこはどこか遠い土地のようです。夜のように暗い空。しかし、星は見当たりません。
メテオールが立っている大地は草もまばらな乾燥した土地で、目の前に空よりも黒々とした山脈が見えます。後ろからは灰色の薄明かりがさしているようですが、その光源はぼやけて分かりません。
「ここはどこだろう? 」 メテオールはつぶやきました。
「幽明のあわい」 誰かが答えました。
「誰だ? 」 答えはありません。
メテオールは答えた相手を探してきょろきょろと見回しましたが、目に入るのは砂と石とまばらな草のみ。
「早く帰った方がいいよ」
さっきの声とは違う何者かが言いました。
「何処にいる? 」
「僕等は大勢いるんだよ。でも、姿を現すことは出来ない。ここ、あわいの住人だから」
又違う声が答えました。何人も答え手がいるようです。
「ここは危険なところなのか? 」
メテオールが聞きました。
「うううん? そうじゃないけど、奴らがいるから生きた者には危険なんだよ」
「やつらって? 」
「影の奴隷......。僕らはそう呼んでいる。僕等は死んじゃってるけれど、奴らは死んでない。生きてもいない。永遠に彷徨って言うことを聞くだけ」
「誰の言うことを聞くんだい? 」
「あそこに山脈が見えるだろう? その向こう側にある、死の谷の王。オプスキュリテ! 」
「あいつらオプスキュリテの奴隷なんだ。僕達あわいに住む者も大勢やつらに殺されたよ!
生きていた時、生贄になったんだ」
「僕は水に沈まされた」
「僕はナイフで目をえぐられた」
「僕は手足を切り取られた」
「僕は舌を切り取られた」
大勢の何かの気配が足元に感じられました。
「君達は人ではないの? 」
「僕たちは人間じゃあなかった。多くが、獣と言われる森に住む者。
たまに人間に飼われていた者もいるけどね」
「僕は人間の家にいたよ。君のお父さんも知っているよ。
お父さんの友達のジニっていう子のペットだったんだ。
時々、君のお父さんとも遊んだ。だけど、ラシャって子に殺されたよ。随分前だけど! 」
「お願い! 僕たちの為に仕返ししてよ、メテオール! 」
「僕達! 本当は生まれ変わらなきゃならないんだ。ここにいちゃいけないんだ! 」
「オプスキュリテを倒してよ。そうすれば生まれ変われるよ! 」
「ラシャを倒して。奴に寄生している死の王はまだ弱いよ。竜の珠を奪って! 」
「僕達応援するよ。いっぱいいるんだよ。何百といるんだよ。小さくてもいっぱいなんだ! 」
いつの間にかメテオールの足の周りに小さな獣の気配が押し寄せてきました。
暖かい、蛍のような薄灯が灯り、それが何百と言う数になって、メテオールの体を這い登って行きます。
それから、その灯たちは次々とメテオールの懐に吸い込まれて行きました。
メテオールの懐は薄黄色く輝く大きな灯に照らされて、何かの照明を隠しているようです。
赤ん坊を抱えているようにとても暖かい感じがしました。
全ての灯を吸い込むと、今度はもっと黒く濃厚な気配が近づいてきます。大きな黒々とした影。
こちらは人間の影のようです。きっと灯に誘われて来たのでしょう。
数人......。5人ほどでしょうか?
輪になって、メテオールを包囲しているようです。
それらが近づくにつれ生くさい匂いが漂ってきました。
目を凝らすと、黒いローブに杖を持っています。元は魔法使いだったのでしょう。
顔色は青く頬はこけ、目は落ち窪み瞳は見えず、空洞のようにガランとしています。
髪の毛も眉毛も無く、表情も無い死人のようです。男も女もいました。
彼らに感情があるとは思えませんでした。
死ぬも生きるも出来ない者。影の奴隷......。
ぞっとする冷気が彼らを取り巻いています。
メテオールの体に鳥肌が立ちました。
「早く! 僕たちを持って帰って! 早く! 」
急ぐように懐の光達が言いました。
影の奴隷たちが一斉に杖を上げました。そして...... --
ドンドンドン!
間いっぱつで瞑想から覚めたメテオールが、ドアを開けると、そこには心配顔のプレーリーが......。
「何してたんだよ~。心配したんだぞ! 君! 懐に何を抱えているんだい? 」
メテオールは無意識に懐を大事そうに抱えていたようです。
懐を開いてみると、いつもと同じ杖が一本。
けれど、その杖は微妙に光り輝いて見えました。
「ん。で、何があったか教えてくれるんだろうね? 」
プレーリーは杖とメテオールを交互に見ながら尋ねました。
.............続く。.....................
by emeraldm
| 2010-09-07 14:51
| 小説- 赤髪のメテオール(2)