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rubyの好きなこと日記

NO16。......贈り物......


 プレーリーの部屋は昔と同じにこじんまりとしていて清潔で、居心地の良い場所でした。
 アルコールランプの淡い光が金色にともり、部屋を暖かく照らしています。なぜか、窓辺には水しか入っていない小さな水槽が置いてありました。
 プレーリーはベット脇に腰掛けて、メテオールは窓際に置いてある木の椅子に座っていました。
 彼の唯一つの趣味は杖収集。部屋の壁には色とりどりの、色々なデザインの杖が所狭しと飾ってありました。エムロード商店街に一番古くからある骨董店。創業600年以上と言われているエカイユ骨董店は彼の子供の頃からの行きつけの店で、お小遣いが出来るとエカイユに行き珍しい中古の杖を買っていたようです。
 夏休みに何回かメテオールも連れて行ってもらった事がありましたが、そこには魔法の杖も普通の杖も何百と在庫があって、小さいので10cm前後大きいので2mほどもある杖が大壷やショーケースに並べられ、杖よりももっと神秘的で何に使うか分からない世界中の不思議な物が並んでいました。子供の頃メテオールは、杖よりもそこにある大きな巨人の甲冑や立体天球図に夢中でしたが、プレーリーは子供でも買えるデザインの変わった中古の杖を夢中で探し回っていました。
「プレーリー。コレクション増えたじゃあないか! 杖店も開けるな」
 部屋の壁にぎっしりの杖コレクションを見て、半ばあきれるように、メテオールは言いました。
「うん! 最近は安くていい掘り出し物が沢山出てくるようになったんだ。いいのが入ると、エカイユのおじさんが声を掛けてくれるんだよ。そこの青い柄のついたサーベル形の杖があるだろう。それはドワーフの製作物で、魔法の杖さ。でも、僕は使えないからコレクションだけだけど」
 メテオールはその杖を手に取り、触って見ました。15cmほどの小さな軽い杖です。青い柄の所は金属で出来ていて、刀身を模した本体は硬い銀色の鉱物で出来てました。ドワーフの製作物にしてはシンプルすぎるデザインでしたが、確かに迫力があり、魔法の力がこもっているようでした。
「振ってみていい? 」
「いいよ! 」
 メテオールが軽く杖を一振りすると、ピシャ! っと杖から水が出て、自分の顔に引っかかりました。
「うふふ。それ、水杖なんだって。エカイユおじさんが言ってたよ! 」
 いたずらっぽい笑顔でプレーリーが言いました。メテオールも水だらけになりながらも、二カッ! と笑いました。まったく、子供のいたずらみたいです。昔もよくたわいも無い悪戯を仕掛けられ、2人して笑ったものでした。
「でもね。メテオール。それ、本物なんだよ! 水杖っても、子供用のじゃあないのさ。それ、あげるよ。僕からのプレゼントさ。マーフォークの杖って名前なんだが、僕には使えないんだ。勉強不足だし、僕は魔法使用の免許も無い」
 メテオールは少し心が沈みました。プレーリーはあと1年で魔法学校を卒業し、りっぱな魔法使いになれるはずでした。それが叶わなかったのは、父親が倒れ、帽子店を継がなければならなかったからです。杖の使用許可が下りるはずの最終学年を残して、彼は退学せざるおえませんでした。しかし、メテオールは知っていました。杖が子供の頃から何より好きだった彼が、杖の魔法を使えないはずは無いと。
 きっと隠れて練習しているはずです。公にそれを使うことが出来ないなんて、きっと歯がゆい思いをしていることでしょう。
「プレーリー。いつか、暇になったら......。おじいさんになってからでもいいよ! もう一度。学校にもどってくればいい。あと1年だ。君はりっぱな魔法使いになれるよ。そうしたら、僕の仕事を手伝ってくれ」
 プレーリーの瞳が輝きだしました。
「ああ。そう出来ればどんなにいいか? ありがとうメテオール。しかし、先祖代々続いてきた帽子店を閉めるわけにはいかないよ。お得意さまもいるからね。それに母を一人には出来ない」
「そうか......。君は親思いだからな」
「ところでメテオール。相談ってなんだい? 」
「ああ。最近プロスペレで、オンブル教という宗教が流行りだしてないかい? その教団の噂を何か知らないかなと思って」
 プレーリーは明らかに暗い目をしました。
「あくまで噂だが、知っているよ。真夜中に集会を開いているらしいんだが、信者や構成メンバーが誰なんだか良く分からないんだ。家族にも秘密にしているらしく、皆が寝ているまに集まって、よからぬ事をしているらしい。今年に入ってもう18人も魔法使いが殺されたよ。皆たいした力も持たない呪術師だが、エムロード商店街の薬剤師のペールおじさんも行方不明だし。知ってるだろう? あの人は君のお父様の同級生だよ。皆殺されたって噂している」
「オンブル教は魔法使いを狙っているの? 」
「それが、分からないんだよ。今年に入ってから普通の人間も行方不明やおかしな死体になって発見されているし。しかもオンブル教とのつながりが分からない。あの教団の噂が出てから、次々に事件が起きるので人の噂でオンブル教のせいにされているのかもしれないし」
「おかしな殺され方ってどんな? 」
「う~ん。目がくりぬかれていたり、内臓がそっくり無かったり。真っ黒くしなびたミイラになって発見されたりして、それはひどい状態だったらしいんだ。皆は黒魔術の儀式に使ったんだろうって言っている。戦々恐々さ。次はいつ、誰が襲われるか分からない。犯人は身近にいる人かもしれないし。こんなときにクラージュ大帝は狂ってしまったとの噂だし。何しろ、町中で得たいの知れない魔法が使われたって、警護兵すら出動しないんだから。」
「街中で魔法が使われたの? 」
「うん! 家も大変だったんだよ! 急に店の帽子が町中を飛び回り始めて、それを捕まえるのに一苦労だったよ。隣の酒屋さんなんて、ワインが全部お酢になっちゃって大損したって言ってたし。街灯が一斉に点いたり消えたり。不気味ったらありゃしない。」
「ふ~ん! そうか。これは国際魔術連盟が動くはずだな。」
「え? 国際魔術連盟が動いているの? 」
「うん。アルおじさんと親父が、もうこちらに向かっているよ。アルおじさんの部下達も来るかもしれないな。僕はまず、今夜大帝に会ってご容態を見てからオンブル教に潜入して見るよ」
 プレーリーは心配そうな顔をしました。時々、メテオールが大帝の為に危ない仕事をするのは知っていました。しかも彼は魔法の天才です。しかし、家族のように思っている彼が、危ない橋を渡らねばならないのは気持ちの良いものではありませんでした。
「仕方ないな。止めても行くんだろう。ならせめて、親父の帽子を被って行ってくれよ。」
 プレーリーは部屋の隅から、がさごそと鍵のかかった帽子箱を取り出し、中を開けました。
 中には黒い、何のへんてつもない山高帽が入っていました。飾りにはシンプルな丸いボタンが右の端に2つ縦に並んでいます。
「おやじさんの帽子? 形見じゃあないのかい? 」
 メテオールは何を言っているのかいぶかって、プレーリーを見つめました。
「おやじは生まれながらの魔法使いだったのさ。僕と同じで家を継がなきゃならなくって、正式な魔法使いにはなれなかったけど。時々、独学で魔法の研究をしていて、この帽子は彼の作品だ。
 これは家族だけの秘密なんだ。オンブル教に潜入するんなら、この帽子とマーフォークの杖を持ってってくれ」
「使い方は? 」
 プレーリーはニコリと笑い、帽子を被ると、次の瞬間消えてしまいました。あっと、思っているまに現れました。
「ボタンを回して。上のボタンは消えるボタン! 下が現れるボタン! 」
「マーフォークの杖はリクドフォール! 何々って唱えればいい。例えばそうだな。あそこの水槽見てて。 リクドフォール! 割れよ! 」
小さな水槽の水が空間を作り2つに別れました。
「リクドフォール外へ! 」
 水槽の水は渦を巻き始め、竜巻のように吸い上がり弧を描いて窓から外へ飛んで行きました。ばしゃんと下で水が地面にぶつかる音がしました。
「憶えておいて、メテオール。この杖は海を割る事も出来るんだよ」
 いたずらな子供に帰ったように、プレーリーの瞳は輝いていました。

......................続く。.....................
by emeraldm | 2010-08-31 12:36 | 小説- 赤髪のメテオール(2)

突然の乳癌ステージ4の告知から人生計画が変わってしまったRUBYのブログです。少しでも誰かの役に立てるように、闘病生活を綴ります。

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