2010年 07月 30日
父と母の物語。。NO12.....逃亡.....
「セルヴァン! 逃げるわよ!!」
シュルシュ姫がきつい表情で言いました。
「に、逃げるって?? 姫様? え~~~っ???一体どこに???」
セルヴァンはおろおろとするばかりです。
困った。困った。竜王様に知られたらとんでもないことに。
「私は人間の姿と変わらないわ。貴方はそうね。私の寝台の布をすっぽりかぶっていれば、ばれやしないわよ。」
そうよ、そう! なぜ気付かなかったのかしら?
私たちは人間に化けられる。人間に隠れて、そう。あのエストック山を越えてしまえば、父もモーヴェも追っては来れない。私の3つ目の目が開くまでの辛抱よ。開いてしまえば、モーヴェも手を出せないし、人間の世界も見物できるし、一石二鳥じゃあないの。もしかしたら、赤い髪の彼を探せるかもしれない。。。。
「ま、待って下さい。そんなことをして、万が一捕まったら、私目はどんなことになるか? 後生ですから大人しくモーヴェさまと婚約の儀式を!」
かわいそうに。セルヴァンは震えています。心配性な下級竜には耐えられない出来事です。シュルシュはセルヴァンをじっと見つめました。穴が開きそうに見つめられ、セルヴァンはふ~~っとため息をついて言いました。
「仕方ないです。姫様は子供の頃より言い出したら聞かないお方。
分かっております。しかも、姫様、何にも知らないですもん。世の中のこと。
セルヴァンがいないと駄目ですもん!」
ちょっと涙目ですが、なにやら決心した様子です。頼りなく見えますが、セルヴァンは子供の頃よりの姫の御付。姫の乳母の子供、つまり乳兄弟なのです。姫のためなら死をも恐れない。嫌、人一倍恐れてはいるのですが、我慢できると思っている忠実な友でした。
「ありがとう! セルヴァン。私の姉妹。ではさっそく出かけましょう。時間が無いわ。
明日の攻撃の準備でモーヴェは忙しい。
小さな目立たない船を用意して。
人間に化けるのだもの、空を飛ぶわけにいかないわ。さあ。いそいで」
ウロコ島では、戦と披露宴の準備で皆忙しくしていました。
しばらくして、島から小さなボートが音も立てず滑るように出て行ったのを、誰一人見咎めるものはありませんでした。。。
...............続く。.....................
by emeraldm
| 2010-07-30 17:43
| 小説- 人と竜の結婚 (1)