カテゴリ:小説-怪談( 2 )

「ひ、ひぇ~~~」
 老人が雷の光に照らされて一瞬鬼に見え、腰を抜かすところでした。
ところが、雷が落ち着くと、別段かわりばえのない普通の老人です。
 老人は彦座の様子にはお構いなく、遠い目をしながら、ぼそぼそと話を始めました。

「あれは、娘が16の頃じゃった。
この辺りでは評判のべっぴんでな。わしも鼻が高かったもんじゃ......。
 ところが村の庄屋んとこの息子に一目惚れされて、
娘もまんざらでなかったらしく、わしの目を盗んでちょくちょく逢引きをしておったのじゃ。
 ところがわしが気づいた時には娘の腹には赤子が授かっておっての...。
 いくら好きおうておっても木こりの娘。所詮身分違いじゃ...。
 あきらめろと説得しても、どうしてもやつと一緒になりたいと泣きよるのじゃ。。。
 わしは反対した。やつともう会わぬように言って聞かせた。
 わしは娘だけが大切だったんじゃ。身分違いの結婚で娘を不幸にしたくは無かったのじゃ。
 
 しばらくして、娘の腹が大きくなり出すと、そのことが村で噂になっての。
向こうの親の知る事となった。
 庄屋の息子は元々親の決めた許嫁がおってな。その年すぐに無理やり祝言を挙げさせられてしもうたのじゃ」

「それはひどい」
 思わず彦座が言いました。老人の話に引き込まれていたのです。
「相手の親御さんは娘さんには何もしてくれ無かったのですか?」

「使いの者に10両を持たせ、娘に別れてくれと...。今後一切息子に近づくなと」

「なんて人達なんだ!しかも本人ではなく使いの者を立てるなんて!」

「娘はもう気が狂わんばかりに嘆いての...。泣いて、泣いて涙も枯れて。
腹ぼての体も顧みず、逢引きの場所に何時間も動こうとせず奴を待ち続けておるのよ。
あまりの嘆きに、きっと気が狂うてしまったんじゃろ。
身なりを繕う事もせず、訳の分からん事を呟きながら歌を歌いよる。
 
-- ねんねんよー。おころりよー。あの山超えて谷超えて、ぼうやのいい人やって来る。--

 わしは娘が可哀想で、可哀想で...。その場で待つなとは言えなんだ」

「可哀想に..。それにしても相手の男は何をやってるんだ!親の言うなりなんて男として情けない...。」
 彦座は自分のことのように憤慨していました。恋多き男の彦座としても、ここまで卑怯な真似はしたことがありません。

「地主の息子に嫁いできた嫁は年上で、おまけに器量も悪かった...。
 なんとかして逃げ出そうとする息子を疑った嫁は、どこぞで娘の噂を聞きつけてきたんじゃろう、嫉妬で狂うておったんじゃ。
 あの日、いつもの逢引きの場所で...。
 ちょうど、お前さんが通って来た山道の方じゃ。
 腹の突き出た娘を待っていたのはやつの嫁さんの方じゃった....。

--ねんねんよー。おころりよー。あの山超えて谷超えて、ぼうやのいい人やって来る。---

 その歌を聴いた嫁は嫉妬の鬼となって、
用意してきた、長い肉切り包丁を振りかざし、娘の後ろから...。

はっ!として振り向いた娘の腹を真一文字にバッサリ!!」

 「ギャーッ!!!」

 彦座は思わず叫びました。

「...... 以来。わしはこの山小屋で、娘の供養をしておるのじゃ...。」

 
老人の話を聞き、薄気味悪くなった彦座は、老人の進める酒も早々に辞退して、
少し休ませてもらうことにしました。薄気味悪いこの老人と一緒の部屋にいるのが怖かったからかも知れません。
老人が案内してくれた部屋は、小さな山小屋にしては広く、雨や風でガタガタ言う障子と湿って落ち込んだところのある古い畳だけの何もない部屋でした。
彦座はかび臭い畳に直接横になりながら、老人の話の、その後嫁はどうなったんだろうか
などと考えているうちにいつしか眠り込んでしまいました。


----しく.しく.しく----
   
----あ~~ん.あ~ん----

 眠っていた彦座の耳にかすかな女のすすり泣きと、赤ん坊の泣き声が聞こえました。
 急に老人の話を思い出し、彦座の背筋が凍りつきました。

「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏......。」
 
 繰り返し唱えながら、そおっと薄目を開けました。
 障子がボーっと白い光を放ち、どうやらその後ろから声が聞こえて来るようです。

----しく.しく.しく----
   
----あ~~ん.あ~ん----


 段々と声が強く大きく聞こえ始めました。

----しく.しく.しく----
   
----あ~~ん.あ~ん----

 
ついに障子が、
 ガラッ!! 
と開きました。
 
 部屋の中に入ってきたのは白い着物を着た女の人。
片腕に赤ん坊を抱いています。

「ひぇぇっ!!」
 思わず飛び起き思い切り腰を抜かした彦座に、
「痛いよ~。苦しいよ~」 
 --おっ。お助け!!--
 体はガタガタと震えだし、逃げようにも金縛りで、動く事さえ出来ません。
「おいで~」
 女が手で招きました。
 すると、どうしたことか、
 すーっと、彦座の体が宙に浮いたようになり、もがけど、もがけど、ゆっくりと女に近づいて行くのです。

 「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏......。」
 彦座は青くなって唱えることしか出来ませんでした...。
 やがて、女の目の前に来ると彦座の体の動きが止まり、
 女は彦座に赤ん坊を渡しました。

 ずしっ! と、凄い重さです。
 「手、手が折れる...。」
 思わず赤ん坊の顔を見ると、その顔が血だらけに!
 「ひええええええ~~~!!」



~~

 投げ出した赤ん坊をよく見ますと、あの首なし地蔵がそこに転がっていたそうです。
 怪談.箱根が関の一節でございました。
          
                    ~~~~~~


      ...............おそまつ!......................
           BY-RUBY^^
by emeraldm | 2011-10-07 13:54 | 小説-怪談 | Comments(2)
     
~~~~
     
     さて、さて....。
    これからお聞かせ致しますのは、
    江戸の大商人彦左衛門が若かりし頃の物語でございます。
     
     その頃、彦左衛門はとある江戸の乾物屋に奉公しておりました。
    番頭ながら、なかなかの見栄えと頭の良さから大店の娘達の受けも良く
    見合いの話は引きを切りません。泣かせた女子は数限りなく...。
    それでもまだ独り身でいた頃、乾物屋の主から京へと使いを頼まれました。
    そんな道中の箱根が関での出来事....。      

                       
                      ~~~~~


 今は夏。
緑深い山中で、すれ違う人も無く...。
京への荷物を背負いながら、彦座は一人道を急いでおりました。
 聞こえるのは降るような蝉の声。
「あついな...。」
 彦座は首に巻いた手拭いで額の汗をぬぐいました。
「誰も通りかからないな。関所はあとどれぐらいなんだろうか?」
 見回すと、昼なお暗い杉の並木道。彦座以外誰も見えません。
 背高く伸びた雑草と苔の生えた石段。
 少し休もうと、ふと、彦座が視線を落としますと
小さな台座から倒れたお地蔵様がありました。
 倒れた時に首が折れたのでしょう、彦座が見回すと、近くの草むらに
首だけごろりと転がっていました。
「ああ、かわいそうに...。」
 彦座はお地蔵様の体を元の台座に戻し、首を拾って体の上に載せてあげました。
 そうして、又、山道を重い荷を背負いながらとぼとぼと進んで行きました。
 
 そのうち肌寒くなって来たかと思うと、
一転にわかに掻き曇り、篠突くような雨。
 ザ.ザァーッ。ザァ-ッ!
「いやあ!これはたまらん!!」
 駆け出しましたが、前も見えないほどの豪雨。
 行けども行けども雨宿りの場所とてなく、ずぶぬれて途方に暮れてしまいました。
....せめて荷だけでも濡れなければ良いのだが。......
 ずぶぬれで歩きながら彦座は思いました。
「おかしい。そろそろ箱根の関所が見えるはずなんだが....。道に迷ったか?」
 
 そのうち雨はやみ、辺りは霧に包まれました。
 濡れた体が冷え体力をうばい、彦座は今が昼なのか夜なのか?いったいどれぐらい歩き続けているのか分からなくなってしまいました。
 霧の中、とにかく歩き続けていると前方に薄明かりが見えました。
「助かった。家か?」
 近づいてみるとそこには一軒の小さな山小屋。
.....これは良いところに家があった。ここでしばらく休ませてもらおう。....
 彦座はそう思い、家の戸口を、
 トン、トン、トン。と叩きました。

「どなたかな?」
 中から出てきたのは高齢のご老人。
「旅の途中、突然の雨と霧で困っております。しばらく雨宿りをさせていただけませんでしょうか?」
 
 その時どこかで雷がゴロゴロと鳴り始めました。
「それはお困りでしょう。どうぞ中に入って暖まって行きなされ」
 そう言うと、老人はしわくちゃの顔をほころばせ、ニタッと笑いました。

 
 家の中はかび臭く、湿ってじめじめしています。
どうやら老人はこの山小屋で一人暮らし。
 小さな小屋の中には囲炉裏が置かれ、鉄の鍋には食べ物がぐつぐつと煮えておりました。
 老人に進められ、囲炉裏端に座ると、暖かさが身に沁みます。
 鉄なべの煮物を頂き、段々と着物が乾き始め体が暖かくなってゆくにつれ、
 彦座はこんな侘しい山中にどうしてご老人一人だけで住んでいるのか?ふと、気になり始めました。

「ご老体。こんな寂しい山中でどうしてお一人でお暮しなのですか?
誰か他に血を分けた者はいないのですか?」
 
 老人は囲炉裏端の向こうで、寂しそうに俯きながら言いました。

「わしにもな、生きておったらちょうどお前さま位の年の娘がおったんじゃ」
「お嬢さんは亡くなられたのですか?」
 彦座は悪いことを聞いてしまったと後悔しました。

「いや、いいんじゃよ。昔、昔のお話じゃ....。
そうだ、旅のお人。今宵は旅の土産にお前さまにお話をして進ぜよう。
この天気。まだまだ上がる気配はない。今夜は泊っていくがいい。
長い夜。つれづれに話を聞くのも一興ぞ」

 ドン!!ガラガラガラ。 
 と、どこか近くで雷が落ちました!
 ピカッ!!
 一瞬光に照らされて老人の青白い顔が闇夜に浮かび上がりました.....。


...................続く。......................................




 
by emeraldm | 2011-10-06 11:55 | 小説-怪談 | Comments(2)

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