「ほっ」と。キャンペーン

 ゴンが後ろから銃で狙っているとも知らず、猟師は死んだ妻に語り掛けました。

 「きぬ。きぬ。お前には苦労ばかり掛けたな....。俺が酒を飲んで喧嘩さえしなければ、人殺しさえしなければ、もっといい暮らしをさせてやったのに。
 島帰りの俺は狐の毛皮一匹、売ることもできねぇ。村八分の俺たちにゃ、生きていくにもつらい暮らしだ。
 お前を医者にもかけられずやっとのことでお前の薬を手に入れたのに....。
 なんてこった!俺はこの数日、お前に何をしてやれたって言うんだ」

 ゴンは猟師の後頭部に銃口を向けました。
 不穏な気配に気づいたからか、突然男の肩の上から、りんの驚いた顔が飛び出しました。
 「お兄ちゃん!!どうして!」

 猟師がゆっくりと、ゴンの方に向き直りました。
 「お前はすすきの原の子ぎつねだな。両親の仇を取に来たか?」
 「お兄ちゃん!やめて!!」
 
 りんの体がガタガタと震えました。 
 ゴンの指も震えています。
 猟師の目は落ち着いて真っ直ぐにゴンに向いています。

 「子ぎつねよ。一思いにやるがいい。俺も今までそうしてきた。
 生きるために一切の情を捨てて殺してきた。
 今こそ仇をうついい機会だ。もう、人の世に未練は無い。
 しかし、この子だけは見逃しておくれ。あの日、俺がお前を見逃したように....。」

 


 月明かりの中、ゴンはトボトボと一匹だけで山に帰って行きました。
 不思議と、あの猟師に対する憎しみは消え去っていました。
 厳しい野生の世界より人間の世界の方が遥かに残酷なのを知ったからかも知れません。
 捕るものと捕えられるもの。それ以外の残酷さが、人間の世界にはあるのです。
 死の恐怖よりも何かもっと得体のしれない悲しみ...。
 それに立ち向かわなくてはならない人間たちを哀れに思い、悲しく感じました。
 暗い獣道を歩きながら、
ゴンにはすすきの原の美しい月夜と黄金の穂波、暖かい洞窟の寝床そんなものが急に恋しく大切なものに感じられました。
 
 その後、猟師は銃を捨て農民となりました。
 幼い娘と妻を置き去りにして、薬を探した数日の間、娘が山でどうしていたのか聞いたからです。
 あの子狐は、娘を助けてくれた恩人でした。
 そして、時々知らぬ間に、家の戸口に山栗や山菜、果物やウサギの死体などが置いてあることがありました。きっとあの子狐の贈り物です。
 これ以上の殺生をしてはならない。猟師はそう悟りました。

 それから十年の月日が流れ、猟師は流行病で死にました。
 一人娘のりんは、村でも評判の美人になり、昔いじめた悪童共も憧れる娘へと成長しました。しかし、どうしても娘に近づく事が出来なかったのは、近付こうとするたびに、知らぬ間にどうした訳か酷い傷を負ってしまうからです。
 けれど、りんが年頃になると、どこからかりっぱな逞しい青年が現れてりんは嫁いで行きました。
 


  すすきの原ではそれから、若く美しい狐の夫婦が仲睦まじく暮らしていたそうです。
  春には丸まると太った子ぎつね達が生まれ、ミャーミャーと産声を上げました。
 長い長い年月の間。
  秋の夜にはすすきの原で、仲よく寄り添った狐の夫婦が、
  美しい蛍の乱舞を、いつまでもいつまでも飽きずに眺めていたそうです。      



............END...................。

                   m (__)m BY-RUBY^^
b0162357_16575659.jpg

by emeraldm | 2011-10-02 16:06 | 小説-秋の夜に、すすきの原で。 | Comments(10)

 
 りんの家は、村の集落と離れた街道沿いにポツンと一軒だけ建っていました。
 茅葺の今にも崩れそうな古い家です。
 家の近くに来るとりんは駆け出し。
「お母ちゃあ~ん!」
 と叫びながら戸口へと駆け込みました。
 その声に、近くの紅葉が、ぱらぱらと散り、ゴンは嫌な予感がしました。
「いやーーーーあ!母ちゃあん!!」
 りんの悲痛な叫び声が聞こえました。
「遅かったか?」
 ゴンは急いで暗い家の中に駆け込みました。
 死の匂い立ち込める家で、りんはふとんの上の青白い母の胸で泣いていました。
 辺りには、りんが母ちゃんにと大切に持ってきた、くりやキノコが散乱していました。
 あまりのショックに声が出なくなったのか、りんは咽ぶようにすすり泣いているだけです。

「う、うう。うーう。うっ。うっ」
「りん。りん!泣くなよ。どうしようも無いよ。お前はまだ子供なんだから。
大人だってどうしようも無かったんだから...。」
 
 りんの気持ちを、ゴンは痛いほど分かりました。
ゴンだって、いきなり両親を殺されたのです。
 死んでゆく親と残された子供の気持ち....。

「りん!りん。おいで」
 ゴンは優しくりんを抱き起すと、しばらくの間、そっと抱きしめていました。
----りんの母ちゃん。おいらのかあちゃんに似ていて優しそうだな。------

 ゴンの目からも、ポロリと涙の粒がこぼれました。

----りん!おいらが守ってやるからな!-----
 ゴンはそっと誓いました。

 そうやって、何時間が過ぎたのでしょうか?気が付くと日が暮れ始め、夕日が赤々と雫月山を照らし始めました。りんはすでに泣き止み、ゴンの腕の中でぼおっとしていました。
 どこかで美しい虫たちの歌声と、カエルの呼び声が競い合うように聞こえ始めました。
 秋の夕風の一握が、りんの家の戸口から家の中を、サッと通り抜けて行きました。
 冷え冷えとしてきた家の中は、明りも火さえ無く、ただ、疲れ切った子供と一匹の獣が抱き合いながら温めあっているだけでした。
 ガタン!!
 突然、何かをぶつける音がしました。
 
「きぬ!きぬ!!」
 うつろな目でゴンが見上げると、そこには大きくて毛むくじゃらの熊のような大男が立っていました。
 ガウルルル!
 ゴンが唸りました。
「父ちゃん!!」
 りんの体が飛び上がりました。
 ゴンが大男に飛びかかる前に、りんはお父ちゃんに飛びつきました。
「うぇ~~~ん!えーん!えん」

 ----そうか?父ちゃんが帰って来たんだな。----
 
  ゴンはなんだか、寂しいようなホッとしたような、複雑な気持ちでただ見つめていました。りんが父ちゃんの腕の中で、思い切り泣いているのを見て、ああこれでりんも安心する事が出来たのかと納得したのです。
 さっきまで、自分の腕の中で、ただ震えていただけの子が、今はお父ちゃんの腕の中で思い切り泣いている。
 父親はりんを抱えたまま、その場でへなへなと頽れてしまいました。

「きぬ。悪かった。お前の薬代にとやっと仕留めたつがいの狐。
町に売りに行ったが買い手がつかねえ。やっとこさ人参一本と交換できたのに。
俺がいない間にお前はもう...。」

 山の獣たちの間で、何よりも恐れられ憎まれている猟師。
油断のならないその相手が、今や何と小さくか弱く感じれた事でしょうか?
りんを抱いているこの大男は、全身の力を使い果たしたように肩を落しています。
 ゴンはそっと目立たぬように、家を出て行こうと大男の後ろを回り、戸口に立ちました。
男は何も見えていないようでした。さて、家を出ようとした時、ゴンは見てしまいました。
猟師の背負っていたかごが戸口に放り投げられ、そして、かごに付いていた見憶えのある毛束。網目に挟まっていた幾筋かの毛はゴンの母のものでした。

 ---つがいのきつねって父ちゃんと母ちゃんのことか??......。----

 ゴンは振り返ってもう一度、うずくまっている猟師を見ました。
猟師の後ろ、まさにゴンが通ってきた道に、猟師の銃が無造作に投げ捨てられています。

 ---今ならやれる!父ちゃんと、母ちゃんの仇...。-------

 ゴンはそっと近づくと、猟師の銃を手に取りました。
 暗闇にゴンの瞳が鋭く光りました。

........続く。.................................
by emeraldm | 2011-10-02 14:54 | 小説-秋の夜に、すすきの原で。 | Comments(0)

 
 りんがもうずいぶんと山から離れたのを見届けてから、ゴンもそろそろ山へ帰ろうと背を向けた時。
遠くで遊んでいた子供たちのはやしごえが、急に大きく、ゴンの耳に届きました。
 
 「や~~~い!や~~い!!乞食の子。くさいぞくさいぞ、あっち行け~~!」
 「やーい!やーい!!弱虫りん。お前の父ちゃん人殺し!」
 
 -- 何??--
 
 ゴンは愕然と、声のする方を見ました。麓の村では、今別れたばかりのりんの姿が、4~5人の子供たちに囲まれてうずくまっていました。
一人の悪童が、りんのおかっぱを引っ張って倒しました。
 りんの懐から、母ちゃんのお土産に拾った栗がぼろぼろとこぼれました。

「こいつ!山で栗拾いして来たな!おまえんちは貧乏だからな。
よし!俺らに全部よこせ!!」
 そう言うと、一番大きな悪童が、りんの胸元を掴みました。
「だめ!これは母ちゃんの~~~!」
 りんは叫ぶと栗を庇うように胸元を隠して地面に丸まってしまいました。
「なんだと!りん! 俺らに逆らうか!!お前の父ちゃんは人殺しなんだぞ!!」
 中の一人が木の棒を拾い、りんを叩こうとしたその時。
 一陣の風が吹き、黄色い何かが山から走りだしました。
 
 ゴンの顔が怒りで引きつり瞳が黄金に光りました。ゴンは一蹴りで山を飛び下りると畑の畦道をまるで黄色い稲妻のように走り抜けました。
 
 「りん!!」
 
 その時。確かに、りんは見ることが出来ました。
こちらに向かって、一目散に駆けつけて来る怒れる少年の姿を。
 そして、子供たちの間を、何か勢いのあるものがサッと風のように通り抜けました。
 「ギャッ!!」
 物凄い悲鳴が上がり、悪童が持っていた木の棒が吹き飛びました。
腕からは血が吹き出し、刃物で傷付けたような傷が真一文字についていました。
 子供たちはみな、呆然とその子を見ています。

 「痛いよ~~~!あ~~ん。母ちゃ~~ん!!」
 一瞬。間をおいて、その子が泣きだすと、
    
 オーーーン!!
 
 ゴンは咆吼を上げました。
 その声が、
 
 「おいらのりんに手を出すな!!」 
 
 りんにはそう、聞こえたのでした。
 
 子供たちは一斉に、りんの前に立ちはだかる怒り狂った獣を見て、
「いや~~~あ!」
「助けてぇ~~~!!」
「ごめんなさ~~~い!」
 口々に何か叫びながらばらばらに逃げて行きました。

「お兄ちゃん!来てくれたの??」
 泣きべそをかいていたりんの顔が、ぱっと!明るくなりました。

「りん!あんなやつら、おいらがやっつけてやるからな!!」
 
 ゴンは知っていました。大勢の人間の前で、人間に化けるのがとっても難しいという事を。
だからこそ、人里に近づかないようにして来たのです。
あの子らには、ゴンが本来のきつねの姿に見えたことでしょう。
 ですがりんには、なぜいじめっ子達が急に怯えだしたのか?
本当の意味では分かっていませんでした。
 りんの目にはいつまでもゴンが人の姿に映っていましたし、
多分、お兄ちゃんは強いんだろう。そんな風に思っていたのです。
 
 ゴンにとって人里に下りる事は命がけと言ってもいいことでしたが、
そんなことは頭から吹き飛んでいました。
りんが悪童にいじめられ怒りで思わず走りだしていたのです。

 
「さあ。早く、家まで送っていってやるよ。案内しておくれ」
 ゴンは優しく、りんを立たせてくれました。


..................続く。....................

by emeraldm | 2011-10-01 16:38 | 小説-秋の夜に、すすきの原で。 | Comments(2)

 二人は川沿いの山道を歩いていました。
河原の側は土手になり、その土手には獣道が続いています。
木々の間からは川の流れが見え、川音が心地よく聞こえていました。
時々気持ちの良い風が吹き、天気は晴天で、りんはこのままずっとこうして歩いていたいと思いました。
---お兄ちゃんと、ずっといたいな....。-----
 
 かなり歩いて、りんが疲れ果てた頃。
 前を歩いているゴンが急に背中を向けたまま、りんに言いました。
「お前の母ちゃん。何の病気なんだい?」
 りんは、今までの幸せな気持ちが重く沈んで行くのを感じました。
「分かんない。時々、血を吐くんだ」
 ゴンは後ろを振り向きました。
「医者には見せたのか?人間には医者って言う病気を治す者がいるって、婆ちゃん言ってたぞ!」
「ううん。あたいん家、貧乏だから来てくれないって。父ちゃんが....。」
「りんに兄弟はいないのか?」
 りんは小さく首を振りました。
「父ちゃん。いい子で待ってろって、金作って、すぐに戻ってくるから待ってろって。
母ちゃん。苦しがって父ちゃん呼ぶし、あたい、あたいどうしていいか分かんなくなって...。」
「それで山に父ちゃん探しに来たんだね」
「うん!」
 ゴンは泣きながら山道を駆け出してくるおかっぱの小さな女の子を思い浮かべました。

「お父ちゃーん!お父ちゃーん!!」
 何度叫んだ事でしょう。転んだりあちこち擦りむいたりしながら、あのすすきの原で迷い、そのうち疲れ切って眠ってしまった。
 きっと、気が付いたら夜になっていて、心細くて、怖くって一人膝を抱えて泣いている女の子....。その子をゴンが見つけたのです。
 
 りんはもう疲れたようです。歩調が段々と弱弱しくなっているのを感じ、ゴンは少し休む事にしました。
 「りん。ここに湧水があるよ。少し休もう」
 山道の崖には山から浸み出した湧水が溜まっている場所があり、そこから又、土手の下の川に水が流れて行くのでしょう。そんな場所がいくつもありました。
岩をくりぬいて手桶の形にしたような場所に、冷たい清水が溜まっていて、ゴンとりんは腹ばいになって冷たい水をごくごくと飲みました。
 りんはとにかくゴンの真似を何でもして見ました。
 ゴンはこのままこの子を返したくないように思い始めていました。

---でも、この子の母ちゃんはこの子の帰りを待っているんだろうな...。---

「りん!あと半時も行けば下の村に出る。それまでお兄ちゃんがおぶってやるよ」
 りんは嬉しそうにゴンの背中に飛びつきました。
 暖かくて、頼もしくて、やさしくて。すすきの原の匂いのする背中。
「りんね。りん。お兄ちゃんのことが大すき!」
 背中に柔らかく重みのある子供の体重をしっかりと感じながら、妹ってこんな感じなのかな?とゴンは思いました。
 
 二人の幸せな時は過ぎ。やがて麓に開けた場所が見え始めました。
遠くで子供たちの声が聞こえます。
「りん。もう村に着いたよ。これでお別れだ。早く母ちゃんの所に帰っておやり!」
 りんはゴンの背中で首に手を回したまま、降りようとしません。
「お兄ちゃんも一緒に来て...。」
「駄目だ!おいらは山に帰らなきゃいけない。母ちゃんが治ったら又すすきの原に遊びにおいで!」
 いくら誘ってもゴンが山から下りようとしないので、りんはしぶしぶゴンの背中を離れ、一人歩き出しました。
 何回も何回も振り返ってはゴンを見て、又歩き始めます。

「ほらっ!早く行けよ!!母ちゃんが待ってるぞ!行け!!」
 ゴンは怖い顔をして、りんを追い立てました。
 でも本当は、心がとっても痛いのでした。


..............続く。................
by emeraldm | 2011-10-01 14:38 | 小説-秋の夜に、すすきの原で。 | Comments(0)

ぐうぅ~。
お腹の音がしました。
「えっ??お前、まだ腹減ってるのか?」
ゴンはりんを抱えたまま、あきれた顔をしました。
「うん。お腹すいてる!」
りんは無邪気な顔をあげて、ゴンを見上げました。
「仕方ないな...。そうか、それじゃあ川で魚を捕ろう。それにお前小汚いぞ。
少し顔洗った方がいいぞ!」
 ゴンがりんを突き放すと。りんは自分の手足を見ました。山道で迷って転んで、手足はひっかき傷だらけ、泥だらけでした。
「うん!りん。顔洗う。お魚も食べたい!」
りんはにっこりと笑いました。
 
 ゴンの案内で山を少し下った場所に、きれいな小川がありました。
山の奥まった場所にある川は、紅葉した木々と黒々と尖った岩に囲まれた小さな滝から始まって、まるで生き物のようにキラキラと躍動しながら下流へと流れて行きました。
小さな滝からは水しぶきが霧のように立ち込め、りんはその空気を胸いっぱい吸い込むと、
ふぅ~。と吐き出しました。小鳥の囀りと滝の音の他、物音は聞こえずとても静かで清浄な場所でした。
キラキラと水面が輝き、はらはらと赤や黄色の葉っぱが落ちて下流へと流れて行きます。
そよ風がすうっとりんの頬を撫ぜました。
「いいところだろ?」
ゴンがふと言いました。
「うん。りんここ好き!」
おかっぱ頭が元気よく頷きました。
岩のない小石ばかりの岸辺を選び、ゴンはりんに言いました。
「ここにいるんだよ。おいらちょっくら魚捕ってくるから」
そう言うとゴンはどこかに消えてしまいました。
りんは大人しく座って待っていましたが、やがて座っているのに飽きてしまい、川に近づいて水を手に付けるとその冷たさにびっくりしました。
川の水を手ですくい、口をつけると、なんておいしいお水なんでしょうか?
こんなにおいしいお水をりんは生まれて初めて知りました。
ここは川の源流。神竜川の源泉でした。
 りんはゴンに小汚いと言われた事を思い出し、手足を洗おうと草履を脱ぎ川の中に足を浸しました。
「つめたい!」
氷水に手足を浸けたみたいに冷たい水でしたが、りんは我慢して手足を洗い、ついでに顔も洗いました。
顔を洗うとさっぱりして、気持ちが良くなりました。
「りん!おいで。魚捕って来たよ!」
振り向くとゴンが川魚を何匹か両手に抱え、りんを待っていました。

 暖かい秋の日でした。ゴンとりんは焚火を囲み、小さな川魚の焼きあがるのを待っていました。どこかで、チーッピロロロと鳥の声が聞こえました。
竹のくしで刺した川魚の焼けたおいしそうな匂いを嗅ぎながら、りんはワクワクと幸せな気分でした。こんなに楽しかったことは久しぶりでした。
川魚が焼きあがるのを見つめながら、にこにこしているりんを見て、ゴンもなんだか久々に幸せを感じていました。
 川で体を洗い、きれいになったりんはとてもかわいい少女でした。
黒々としたおかっぱの少女は目がとても大きく黒目がちで、ふっくらと膨らんだ桃のようなほっぺたをしていました。そして何より、人に化けた時のゴンと同じくらい色白でした。
「も、いいだろう。熱いから気を付けてお食べ」
 ゴンはそう言うと、イワナの串焼きを1本取ってくれました。
 りんは嬉しそうにそれを受け取ると、
 ふ~っ、ふぅ。と言いながら噛り付きました。
「おいひぃ!」
 焼きたてのイワナはカリカリで、齧るとじゅうっとおいしいお汁が出てきて、香ばしい香りとともになんともいえぬ美味なものでした。
 ほぅほぅと息をつきながら、暑いイワナを二人してお腹一杯食べました。
「う~~~ん!満腹!!焼き魚は初めて食ったけど、おいしいものだな」
 ゴンが言いました。
「ゴン兄ちゃん?いつもはどうやって食べてるの?煮るの??」
 りんは齧りかけのイワナから目を離して言いました。
「いや。生だよ」
「うぇ~。生で食べんの?」
 りんが怪訝な顔をしました。
「ま、まあ。色んな食べ方があるってことさ!」

-----もっとも、狐火を起こしたのも初めてなんて、りんには言えないな....。
ばあちゃんが化け狐で宮中に仕えていたから、人間が火を使って食べ物を焼かなきゃ食べない事をおいらに教えてくれたんだ。----
 
「さて、りん!少し休んだらお前の家に送ってってやろう。
村はこの川の下流だけど、少し距離があるから今のうちに休んでおきな」
 そう言うと、ゴンはごろりとその場に寝そべりました。
 りんも真似をして寝そべりました。
 川の上空にはトンビが1匹。ピロロロロ~っと鳴きながら飛んで行きました。

............続く。..............
by emeraldm | 2011-10-01 11:48 | 小説-秋の夜に、すすきの原で。 | Comments(0)

「さあ。起きなよ!朝飯の時間だ!!」
 りんは寝ぼけ眼で辺りを見回しました。
 ここはどこだろう?目をこすって見ましたがどうみても穴倉です。
 やがて、目の前で自分を覗き込んでいる少年に気づき、やっと昨日の出来事を思い出しました。
「お兄ちゃん?....」
「ほら!いつまでも寝ぼけていないで起きた!起きた!」
「だって...。」
「だってもさってもあるかい!朝飯。探しに行くんだよ!あ.さ.め.し」
 
 ゴンはさっさと自分だけ穴倉を出て行きました。
りんも真似をして、小さな洞穴から這い出し外に出ると、お日様はとっくに上がり、
朝の光が木々の間からあちらこちらにこぼれていました。
お日様の光が当たっている地面から、湯気のような水蒸気が白く立ちあがり、森の匂いが感じられました。振り向くと今出てきたばかりの洞窟は完全に草や木で隠され、外からは分からないようになっていました。
--へんだなあ。。ここがお兄ちゃんのお家なのかなあ??---
 りんは不思議に思いました。
「さあ。早く、りん!こっちだよ」
少年が歩き出しました。りんを助けてくれたこの少年は朝の光でみると、りんの知っているどんな少年とも違って見えました。
村の少年より黄色っぽく、柔らかくふわふわとした髪の毛を後ろで束ね。
誰より白い透き通った肌をしていました。
瞳は時々金色に輝いているようです。体は細身で背が高くそして何より物腰が流れるように優雅でした。
--お兄ちゃん。きれいだなあ。。すすきの精みたいだ。-----
 りんは歩きながら、少年をうっとりと見つめました。
「お兄ちゃん。お名前はなんて言うの?」
「おいらの名前はゴンだよ」
「お兄ちゃんの父ちゃんと母ちゃんはどこにいるの??」
「......死んじまったよ」
 ゴンの明るい瞳が曇ったので、りんは泣きそうになりました。
「痛い!!!」
 突然りんの裸の足に何かが刺さりました。草履が片方だけになってしまっていたのを忘れていたのです。
「あらら。。。そうか。人間の足は柔らかいからね。気を付けて歩きなよ。
ちょっと待ってな!」
ゴンはガサゴソと草むらに消えると少しして戻ってきました。
手には新しい草履の片方が乗っていました。
「ほら。これを履くといいよ。草の葉を何重にも重ねて作ったから、しばらくは持つだろう」
 りんの目にはとても草で作ったとは思えない完璧な草履に見えましたが、ゴンの機嫌を損ねてばかりいるのでだまっていることにしました。
「ゴン兄ちゃん。ありがとう!」
「えへへ」
ゴンも嬉しそうに笑いました。りんは嬉しくなりました。
「ほら、良く見てごらん。これはクリのイガだよ」
ゴンはりんの足からクリのイガを一本抜き取り、片足に草履を履かせてくれました。
「もうここいらでいいだろう。りん。見てごらん、あちこちにクリが落ちているよ」
 見回すと大きな山栗の木が目の前に立っていました。
「イガを踏みつけないように気を付けて歩きなよ。今日はこれが朝飯なんだから」
 ゴンは落ちているクリのイガから中身を上手に取り出すと、中の栗をポリポリと皮ごと食べ始めました。
びっくりして見ていたりんも、真似して栗を拾って食べようとしましたが固くって噛むことが出来ません。
「お兄ちゃん!固いよ...。」
「しょうがないなあ。りんはよっぽど弱い歯をしてるんだな。それじゃあそこにある、あけびをお食べ」
 ゴンが指さした場所はりんのすぐそばの木で、あけびの蔓が巻き、見事に実った紫色のあけびの実がたわわに生っていました。
 りんは背伸びをしてあけびの実を捕ると甘い中の実を食べました。
「あまあい!」
 昨日から何も食べていないので、りんは貪るようにあけびの実を食べました。
「おいしい!」
「おい!こっち来いよ。りん!今度は柿を食べよう!」
 ゴンはもう奥の方に進み始めています。
「おっと!その前に、りんの母ちゃんに少し栗を拾っていってやんなよ」
 ゴンが立ち止まったので、りんは急いであけびの実を放り出すと、近くに落ちていた栗の実をイガからつまみ出して着物の胸元に入れ始めました。
大分胸元が膨れた頃。
「あちっ!」
 りんはあんまり慌てていたのでイガが指に刺さってしまいました。
「慌てるからさ。もういいだろ?よくばりりん!」
「ゴン兄ちゃん!待って......。」
 りんは胸元を栗で一杯に膨らませて、ちくちくするイガを又踏まないよう気を付けながら、
 ゴンの後を追いました。
「ほら。あそこに柿の木がある。それに柿の木の根元を見てごらん、茸が生えているだろ。
あの茸は食べられるから大丈夫だよ。もうちっと上に登れば、コケモモの木もあるし、この森を下っていったところに川もある。川には魚もいるんだ。
.....本当は我らはこんな食事の仕方はしないんだ。だけど、おいらまだ子ギ.....いや、子供だから獲物が無いときはこうして食べて行くのさ。こっちにおいで!」
 ゴンは手招きすると柿の木をゆさゆさ揺らして柿の実を落としました。
「食べなよ!あまいぞ!!」
 ゴンは落ちた実を取りおいしそうに食べて見せました。りんも真似して柿にかぶりつきます。
「甘い!!!」
 真っ赤に色付いた山の柿は熟れて甘く汁があふれて口元を濡らしました。
 りんが夢中で食べているうちに、ゴンは茸を山のように採ってきてくれて、
りんの着物の背中に押入れました。
 りんは今や大デブです。歩くのもよろよろとゴンの後をついて来ます。
 りんがよろけたので慌ててゴンが抱き起すと。りんはそのまま、大好きなお兄ちゃんに頭を押し付け言いました。
「ありがとう。お兄ちゃん!」
 ゴンはりんのおかっぱ頭をなでながら思いました。
---お前が、人間でさえなかったらなあ。。おいらの妹にしてやれるのに。-----

......続く。...................
by emeraldm | 2011-09-30 13:37 | 小説-秋の夜に、すすきの原で。 | Comments(0)

「さあ。ここだよ。中へお入り...。」
 ゴンがやっと振り向いた時、りんは疲れ果ててぺたりと地面に座り込んでしまいました。
見ると、どこで無くしたのか草履が片方だけになり、片足から血が流れています。
着ている着物も汚れと泥でぐちゃぐちゃになり。とても情けない様子です。
「仕方無いな...。おんぶしてやるから、ほらお乗り!」
 ゴンが背中を差し出すと、りんはかわいらしい笑顔でにっこりと笑いました。
さっきからゴンが急に冷たくなったので、優しくされたのがすごくうれしかったのです。
ゴンの背中は、温かくって、すすきの原の香りがしました。
「お兄ちゃん。ありがとう...。」

 ---まあ、いいか。この子が悪い訳じゃないし....。----

ゴンの温かい背中の上で、りんは急に眠気を覚えあくびをすると、うとうとと眠ってしまいました。きっと安心したのでしょう。
ゴンは背中の重みと女の子の体温。すーすーと漏れる寝息を感じながら久しぶりに何か大切な物を思い出したような気がしました。

 森の奥にあるゴンの住家は子供がやっと入れるほどの斜面に開いた洞窟で、普段は草の葉と暗い森の木々に守られ、鼻の利く猟犬以外は発見することが困難な場所にありました。
 父と母が死んだあの日。母は何かを嗅ぎ付けて、決してこの住家を出ないようゴンに言いつけて置いたのです。
 不安はありましたが、何日も雨と風の日が続き猟が出来ず、その日は飢えの限界に来ていました。父と母は幼いゴンの為にも獲物を捕って来る必要があったのです。
 洞窟で待つゴンの耳にあの日2発の銃声が聞こえ、夜になっても父と母は帰ってきませんでした。翌朝洞窟を出たゴンは、すすきの原で父と母の血の匂いそして嫌な火薬の焦げた香りを嗅ぎ、
絶望の悲鳴を上げたのでした。

----でも....この子は暖かいよ。母ちゃんのように...。------

 ゴンはそのまま洞窟に入り、敷いてあった藁の巣の中にやさしくりんを落とすと、
自分の尻尾を毛布替りに貸してあげ、すぐそばで丸まって眠りました。
乾いた草の香りのする藁の寝床と、きつねの暖かい尻尾の中で、りんは気持ちよさそうにすやすやと眠りました。今は何の心配もないというような幸せな寝顔でした。
 ただ、彼女のふっくらとした頬には涙の跡が一筋。洞窟の入り口から差し込む月明かりに光っていました。

........続く。.......
by emeraldm | 2011-09-29 12:25 | 小説-秋の夜に、すすきの原で。 | Comments(4)

「ほら。ここに獣道がある」
ゴンは振り向くと道を指さして見せました。
 すすきの原の獣道は月明かりに照らされて青白く光って見えました。
「お兄ちゃん。猟師なの??」
 突然。りんが思いがけない言葉を発したので、ゴンは一瞬凍りつき、
ぶるっと、体を震わせました。うなじの毛が逆立っているようです。
つないでいた手が小刻みに震え始めたので、りんは不思議そうに少年を見上げました。
「う。ううん。。。なんでそんな事聞くんだい?」
少年の顔が苦しそうにゆがみました。
りんは何の疑いも無い目でゴンを見つめ。少し心配そうに言いました。
「だって、父ちゃんも」
「父ちゃんも??」
「父ちゃんも獣道...。知ってた」

----なんてことだ!おいらはよりにもよって、猟師の娘を助けてしまったんだ!!---
 ゴンはあまりのショックにしばらくの間動くことさえできませんでした。
「お兄ちゃん。どおしたの??」
りんは様子のおかしいゴンの袖口を引っ張りましたが、何の反応もありません。

----おいらの両親は、猟師に銃で撃たれて死んだんだ。じいちゃんは罠にかけられた傷がもとで死んだ。ばあちゃんは毒を盛った食べ物を食べて死んだ。
それだけじゃあない。山の多くの仲間たちが人間のおかげで怪我をしたり、殺されたりしているんだ。ああ。おいらはなんで、よりにもよって、人間の、しかも猟師の娘なんか助けてしまったんだろう?...。
いや、まてよ。今ここで置き去りにしたら、この子は死ぬ。
そしたら、父ちゃんや母ちゃんの恨みが少しは晴れるかもしれない......。----

「お前の、父ちゃんは猟師なんだね」

 ゴンの固く絞り出すような声に心配そうにりんが答えました。
「うん!でも、もう3日間も帰って来ないんだ....。」
 りんが今にも泣きそうな大きな目をこすったので、ゴンの殺伐とした気持ちが少し和らぎました。親のいない不安をゴンは知っていたからです。
「じゃ。母ちゃんは??」
 くすん!くすん!!りんは又、すすり泣きを始めました。
「母ちゃん。病気になって、父ちゃん帰るの待ってる。あたい。父ちゃん探しに来たの」
 
 なんてことでしょう!人間の、しかも猟師の娘ですが、あまりにも可哀想です。
こんなに小さい子にいったい何ができると言うのでしょう?
この子は一人で3日間も病気の母親の面倒を見てきたのです。
そうして、3日目にどうしようもなくなり、こんな山奥まで一人で父親を探しに来た。
ゴンより小さなこの女の子が。....
この子の父親は病気の妻と幼い子供を残していったい何をしているのだろう?
もしかして、もう死んでしまったのかもしれない。
----やっぱり、見捨てては置けない。それは獣の掟にも背く事だ。----
 
 獣の掟。昔、小さなゴンに母が語ってくれた話。

「ゴンよ。よおく憶えておおき。獣の掟は生きてゆくに大切な掟だからね。
全ての獣はやたらに自分より小さい弱いものを殺してはいけない。
必要な時、必要なだけ取ることは許される。しかし、楽しみの為に決して殺さない事。
今まで、私達はこの山で、飢えることを知らずに生きてきた。
もし、本能にまかせ、やたらに殺していたら私たちが本当に必要とした時に何も食べるものが無くなってしまうよ。今、必要な分だけ山から頂けばいい。
そして、この事も知らねばならない。
人間は獣の掟を知らない。取れるだけ取ってゆく。楽しみの為だけに殺す。
だから人間に関わってはならない」

「母ちゃん!小さいものを殺してはいけないし、人間と関わるなって、
おいら、どおしたらいいんだ! 
この子は人間の子で、母ちゃんと父ちゃんを殺した猟師の娘なんだよ...。おいら、おいら...。」

ゴンは涙を流しながらりんの手を離し、振り向かずにどんどんと歩き始めました。
りんは遅れながらもついて来ます。優しかったお兄ちゃんが少し冷たくなったので、りんは慌ててハアハアと荒い息をつきながらも一生懸命ついて行きました。
りんにとって、闇の中から現れたこの少年は最後の希望。
絶望の中の明かりでした。
「お兄ちゃん!まって」
りんは夢中で泣くことも忘れ、すすきの原を必死で歩き続けました。

.....続く。。。。。
by emeraldm | 2011-09-28 13:50 | 小説-秋の夜に、すすきの原で。 | Comments(0)

「こっち。みてごらん」
女の子は涙と汚れでべとべとの顔を上げて、やっと今ゴンに気づいたかのように不思議そうな顔をしました。真っ赤に泣き腫らしてはいましたが、なんと澄んで大きい漆黒の瞳なのでしょうか?
 ゴンは女の子の大きな瞳の前に両手を差出し、そおっと開きました。
「うわあ!!」
女の子の溜息のような声が聞こえました。
 フワァリ。フワリ。
美しく儚い光の塊が、ゴンの両手一杯に明滅し、
その中から、一つ。二つ。三つ。とゆっくりと小さな光が舞い上がり、
夜空に飛び立って行きます。
「ほら。数えてごらん!」
ゴンは優しく言いました。
女の子の顔も、蛍の光に照らされてキラキラと輝いて見えました。
「ひとおつ...。ふたあつ...。みっつ......。」
一匹、一匹数えながら、女の子の表情もだんだんと明るくなってゆきました。
小さな女の子は一匹一匹指さしながら夢中で数えています。
「やっつう...。ここのつ...。とお!」
最後の一匹が夜空に飛び立ってしまうと、辺りは急に暗くなり、少しさびしくなってしまいました。
「君。誰なんだい?」
ゴンはすっかり泣き止んだ女の子に優しく訪ねました。
ゴンより少し年下の、人間で言えば五歳ぐらいの女の子でしょうか?
「りん」
女の子は答えました。
「りんちゃんって言うんだね。じゃあ、おりんちゃん、どうして一人でこんなとこまで来たんだい?」
りんという女の子の表情が又少し曇りました。
「あたい。。父ちゃん探しに来たんよ」
「それで迷ったの?」
「うん!」
りんの表情があまりにも暗いので、ゴンはこの子に何があったのかと訝りました。
もしかして、おいらと同じつらい思いをしたのかもしれない。。
「父ちゃん。帰って来ないのかい?」
「うん」
りんはうなずくと、自分の膝の上に力なくつっぷしました。
「おいらが家に送っていってやるよ。でも、今夜はおりんちゃんの足で山越えは無理だ。
おいらの家においで。今日はおいらの家で寝て、明日の朝送って行ってあげる。ほら」
ゴンは小さなかわいらしい、りんの手を引くと、すすきの原を踏み分けて行きました。
「お兄ちゃん!待って」
りんが小さな足で必死について来ます。
ガサ、ガサ。と音を立てる背の高いすすきの暗い合間から、りんを捕まえようと何かが狙っているように思えました。
小さなりんには、出会ったばかりのこの少年が、頼もしい大きな大人に見えたのでしょう。
ゴンの力強い頼もしい手を必死に握りしめ、ゴンの背中を消して見逃すまいと見つめ続けました。
ゴンの頼もしい背中は、暗いすすきの原でただひとつの明かりでした。
ゴンの見せてくれたあの蛍の光のように、月の光に照らされて美しく輝いて見えました。
   
....続く。。。。






 
by emeraldm | 2011-09-27 18:05 | 小説-秋の夜に、すすきの原で。 | Comments(4)

 ゴンはこの雫月山の洞穴で生まれました。
本当ならまだ一人立ちも出来ないほどの子狐でしたが、最近優しかった両親が不慮の事故で死んでしまい、自分一人の力で今まで生きてきたのです。
今では、すっかり一人前のつもりでいました。
大きな蛇と戦った事もあります。(でも、その時ゴンは右前足に怪我をしてしまいました。)
大きな兎だって捕まえられます。(もっとも、ゴンから見ての大きさですが。)
だから、この泣き虫誰かさんを怖がる事なんてちっとも思いつか無かったのです。
ゴンは好奇心旺盛な子狐でした。
 ガサッ、ガササ!
すすきの間から鼻面をつき出すと、ここです。確かにここにいる。。。

「えーん!えーん!母ちゃん」
小さな可愛らしい女の子が、膝を抱えて泣いていました。
おかっぱが月の光で光って見えます。
かやの葉で傷つけたのでしょうか?手足は傷だらけで、膝小僧は擦りむけていました。
ゴンはなんだかこの子が可哀想になりました。母を呼んで泣いている姿が自分と重ったのです。
 「コーン!!」
ガササッ。すすきの枝が踏み分けられました。
 「ひっ!」
小さな女の子は驚きと恐怖で目を真ん丸くして、こちらを見上げました。
 「今晩は...。」
ゴンは始めて化けた人の子の姿で話しかけました。その方が、怖がらないと思ったからです。
ところがどうしたことか、女の子の目からみるみると涙が溢れ出し。。
 「ひっ。ひっ!うぇー!!うぁーっ!」
物凄い泣き方です。
ゴンはどうしていいか分からずただオロオロと歩き回り、やがて、いずこかへと走って行きました。
「うぇーん!うぇーん!うっ。うっ」
女の子はゴンが居なくなったのも気付かず泣き続けています。
 やがて、いいかげん泣きつかれた頃に、ゴンは息せき切って戻って来ました。
両手で何かを大切そうに包んで......。

..続く......
by emeraldm | 2011-09-27 06:06 | 小説-秋の夜に、すすきの原で。 | Comments(0)

創作人形  (サーニット / ポリマークレイ) 人形教室開講中♪ 店舗「アトリエ まみ」☆お問合わせはこちらのメールアドレスまでお願いします。kadooroo☆yahoo.co.jp(←☆を@に変換してね。)