2011年 11月 11日
サンタの約束。NO5
やっとこさ、幼稚園が終わり、お迎えが来たと思ったら父の秘書の益田さんだった。
父は会議で忙しいらしい。
益田さんの車はデッカイ古くさい車で、父のジャガーの方が僕は好きだったけど、今日は返って益田さんが来てくれた事が嬉しかった。
父に又何か余計なことを聞かれるかもと、お迎えが少し怖かったからだ。
益田さんは大きな男の人で顔が四角く、ついでに性格も四角くていかつい人だった。
短く刈り込んだ頭の形もそう言えば四角い気がする。
それなのになぜか目だけが線のように細く。僕は思わず見入ってしまうのだった。
ぶっちゃけて言えば僕は益田さんの顔がとても好きだった。
線の様な目はいつも優しく控え目で、四角く四面の性格は真面目さゆえであった。
子供は不思議と善人を見分ける。
「坊っちゃま。お迎えに上がりました。お父様は急な会議に出席されましたから、わたくしめがお祖父様の元にお送りするよう言いつかっております。」
僕は黙って益田さんの車の助手席に腰をかけた。早くジィジの元に帰りたかった。
帰り道の途中。不意に益田さんが僕に尋ねた。
「坊っちゃまはお母さまに会いたくは無いのですか?」
僕は考え込んでしまった。母の具合は心配だけれど、そう言えば会いたいって今まで思わなかったな〜。
何でなんだろう?
「明子様...。お母様がぼっちゃまに会いたがっております。
このまま、お母様の元にお連れいたしましょうか?」
僕は考えた。母には会いたい。でもジィジとの約束もある。
「うん。又今度ね。今僕忙しいんだ」
益田さんは返事の替りに頷いたきりで、それ以上母の話はしなかった。
替りに今日あったことを色々聞いてきたのだが、特別面白い事も無かったとだけ言った。
今思うと、あの頃の僕は幼稚園児にしてはませていたのか?クールだったのか?
自分でもかわいげが無かったなあと思う。
大人の思いは推し量ることは出来なかったが、それでも、自分の思いだけには正直だった。
やっとジィジの家に着いて、僕は車のドアを開けるなり飛び出した。
「サンタジィジ~~~!帰って来たよ~~~!」
ジィジも飛び出して来た。僕はジィジの腰に飛びついた。
「お帰り。早かったな!よし。ご褒美におやつ作って置いたからな。早く家の中に入って手を洗っておいで」
ジィジは僕の頭をなでると、腰のとこをポン!と押して家の中に入るよう促した。
そして自分は車の脇に立っている益田さんの所に行き、なにやら大人の話をしているようだ。
僕は素直に家の中に入り手を洗った。
大人の話...。
僕にジィジと益田さんが大人の話をしているのが分かったのは、
父と母がよくそんな感じで話していて、そんな感じとは、子供が入ってはいけないと言う雰囲気で
二人の目は笑っていなくって何か秘密の話なんだけれど大抵楽しくない話...。
僕は楽しくない話は大嫌いだから、特別大人の話に割り込んで聞かせてもらいたいとは思わないけれど
そんな態度を大人たちが取ることにとても不安を覚えた。
自分の知らないとこで何か嫌なことが進行している。そんな気がしたからだ。
ちょっとして、サンタジィジはもどって来た。
益田さんは帰ったそうだ。
「明日から彼が君を送り迎えするそうだよ。堅信は今忙しいそうだ」
ジィジが真面目な顔で言った。
「そう」
僕はそれだけ言った。父が忙しいのは今に始まった訳じゃあない。
母だって、なんだかんだと家を出ることが多かった。
母はショッピングも観劇もお習い事も大すきだった。
今まで僕の面倒を見てくれていたのは家政婦の田中 真理さんで、
僕はマリちゃんと言って実の姉のように慕っていたんだけど、28歳になって結婚退職してしまった。
今でもマリちゃんは時々僕に会いに来てくれるが、最近赤ちゃんが出来たので会える回数が減ってしまったのが悲しかった。
マリちゃんがいなくなってから、新しい家政婦の長谷部さんと家庭教師の金子さんが来たんだけれど、僕はこの人達が嫌いだった。
なんて言うのかな?この人たちはそれぞれ仕事のプロらしくって、きっと父と母には満足できる人たちだったんだと思うけれど、子供の僕にはその潔癖さ、完璧さが鼻についたんだ。
時間時間で何かのスケジュールに追い回され、おやつの時間まで1分1秒間違わない生活。
子供の僕には過酷すぎたのだと思う。
僕の大すきなマリちゃんは少々ずぼらで抜けていて、母にいつも怒られてはいたけれど、
僕には大切な共感する心というものを持っていた。
サンタジィジもマリちゃんと同じ心を持っていると僕は思った。
母がいないあの家に一人残されず、僕は幸運と言って良かった。
サンタジィジはいつでも僕の味方だったんだから...。
「ヨシュア!おいで。おやつのホットケーキ食べよう!
今日はスペシャルバージョンでアイスクリームいちごソースかけじゃぞ」
ふぉっふぉっふぉ!と小気味よく笑うサンタジィジの所へ、僕は急いで駆け出した。
「わ~~~い!」
ホットケーキは上出来で、アイスクリームもいちごソースも絶妙だった。
こんなにおいしいおやつは久しぶり。
僕がホットケーキに夢中でかぶりつく姿を見て、サンタジィジが幸せそうに微笑んだ。
ジィジが幸せそうなんで、僕もとっても嬉しかった。
僕は今幸せなんだな~となんとなく思っていた。
................................続く。.................................
BY-RUBY
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by emeraldm
| 2011-11-11 09:09
| 小説-サンタの約束