2011年 10月 02日
~小説。~「秋の夜に、すすきの原で。。。」NO10
りんの家は、村の集落と離れた街道沿いにポツンと一軒だけ建っていました。
茅葺の今にも崩れそうな古い家です。
家の近くに来るとりんは駆け出し。
「お母ちゃあ~ん!」
と叫びながら戸口へと駆け込みました。
その声に、近くの紅葉が、ぱらぱらと散り、ゴンは嫌な予感がしました。
「いやーーーーあ!母ちゃあん!!」
りんの悲痛な叫び声が聞こえました。
「遅かったか?」
ゴンは急いで暗い家の中に駆け込みました。
死の匂い立ち込める家で、りんはふとんの上の青白い母の胸で泣いていました。
辺りには、りんが母ちゃんにと大切に持ってきた、くりやキノコが散乱していました。
あまりのショックに声が出なくなったのか、りんは咽ぶようにすすり泣いているだけです。
「う、うう。うーう。うっ。うっ」
「りん。りん!泣くなよ。どうしようも無いよ。お前はまだ子供なんだから。
大人だってどうしようも無かったんだから...。」
りんの気持ちを、ゴンは痛いほど分かりました。
ゴンだって、いきなり両親を殺されたのです。
死んでゆく親と残された子供の気持ち....。
「りん!りん。おいで」
ゴンは優しくりんを抱き起すと、しばらくの間、そっと抱きしめていました。
----りんの母ちゃん。おいらのかあちゃんに似ていて優しそうだな。------
ゴンの目からも、ポロリと涙の粒がこぼれました。
----りん!おいらが守ってやるからな!-----
ゴンはそっと誓いました。
そうやって、何時間が過ぎたのでしょうか?気が付くと日が暮れ始め、夕日が赤々と雫月山を照らし始めました。りんはすでに泣き止み、ゴンの腕の中でぼおっとしていました。
どこかで美しい虫たちの歌声と、カエルの呼び声が競い合うように聞こえ始めました。
秋の夕風の一握が、りんの家の戸口から家の中を、サッと通り抜けて行きました。
冷え冷えとしてきた家の中は、明りも火さえ無く、ただ、疲れ切った子供と一匹の獣が抱き合いながら温めあっているだけでした。
ガタン!!
突然、何かをぶつける音がしました。
「きぬ!きぬ!!」
うつろな目でゴンが見上げると、そこには大きくて毛むくじゃらの熊のような大男が立っていました。
ガウルルル!
ゴンが唸りました。
「父ちゃん!!」
りんの体が飛び上がりました。
ゴンが大男に飛びかかる前に、りんはお父ちゃんに飛びつきました。
「うぇ~~~ん!えーん!えん」
----そうか?父ちゃんが帰って来たんだな。----
ゴンはなんだか、寂しいようなホッとしたような、複雑な気持ちでただ見つめていました。りんが父ちゃんの腕の中で、思い切り泣いているのを見て、ああこれでりんも安心する事が出来たのかと納得したのです。
さっきまで、自分の腕の中で、ただ震えていただけの子が、今はお父ちゃんの腕の中で思い切り泣いている。
父親はりんを抱えたまま、その場でへなへなと頽れてしまいました。
「きぬ。悪かった。お前の薬代にとやっと仕留めたつがいの狐。
町に売りに行ったが買い手がつかねえ。やっとこさ人参一本と交換できたのに。
俺がいない間にお前はもう...。」
山の獣たちの間で、何よりも恐れられ憎まれている猟師。
油断のならないその相手が、今や何と小さくか弱く感じれた事でしょうか?
りんを抱いているこの大男は、全身の力を使い果たしたように肩を落しています。
ゴンはそっと目立たぬように、家を出て行こうと大男の後ろを回り、戸口に立ちました。
男は何も見えていないようでした。さて、家を出ようとした時、ゴンは見てしまいました。
猟師の背負っていたかごが戸口に放り投げられ、そして、かごに付いていた見憶えのある毛束。網目に挟まっていた幾筋かの毛はゴンの母のものでした。
---つがいのきつねって父ちゃんと母ちゃんのことか??......。----
ゴンは振り返ってもう一度、うずくまっている猟師を見ました。
猟師の後ろ、まさにゴンが通ってきた道に、猟師の銃が無造作に投げ捨てられています。
---今ならやれる!父ちゃんと、母ちゃんの仇...。-------
ゴンはそっと近づくと、猟師の銃を手に取りました。
暗闇にゴンの瞳が鋭く光りました。
........続く。.................................
by emeraldm
| 2011-10-02 14:54
| 小説-秋の夜に、すすきの原で。