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rubyの好きなこと日記

NO28。......人質......

 
 メテオールは思わず叫びだしそうな衝撃を受けました。

--シュルシュ! なんでお前がここに! ......

 アイール老人の曳いている綱の先に、まぎれもなく、妻のシュルシュが拘束されています。
 シュルシュは憎悪を込めて、オムファムをにらんでいました。
 メテオールは駆け出して行き、シュルシュを助けたい衝動をかろうじておさえました。
 
 --まだだ。まだ。チャンスを待つんだ-- 

 メテオールの心の言葉が聞こえたように、シュルシュは少したじろぎ、回りを見回しました。
 杖の力はシュルシュにまで及ぶようです。
 獣の霊たちは竜にも働きかける力があるのでしょう。

 --シュルシュ。安心しろ。姿隠ししているから見えないだろうが、私だ。メテオールだよ--

 メテオールが心で話しかけると、シュルシュは少しほっとした顔をしました。

 --あなた。さっき、捕まっちゃったの。ごめんなさい......。
貴方が心配で駆けつけたつもりだったんだけど、私、魔法使えないでしょ。
お父様のほうきに乗っているところをこいつらの仲間に追跡されて、くくりの呪文で縛られちゃって--

 --分かったよ。とにかく落ち着いて、冷静でいておくれ。もうすぐ父の仲間が来るはずだ。大丈夫だからね--

  シュルシュは目に涙をいっぱい溜めました。夫に会えた安心感と自己嫌悪。
夫を助けるつもりが、これでは足手まといになってしまいます。

--ごめんなさい。ごめんなさい--

 シュルシュは何度も言いました。
 その様子に気付いたのか?オムファムが興味を持ちました。

「女! 怖いか? 泣いているのか? 怖いだろう。この大竜はお前を頭から食らってしまうぞ! おや? お前にも醜い傷があるね。額の傷はどうした? お前は不幸な女なのだな? ますますもって面白いな! 不幸な人間がますます不幸になる。これこそが正義じゃ! アイール。この女をヴォレの餌食にせよ! 」

 アイールがモーヴェの鼻先にシュルシュを放り出しました。

「さあ。食え! ヴォレ! 新鮮な肉じゃぞ! 遠慮はいらん」

 ところが、シュルシュは拘束されたまま立ち上がり、モーヴェの耳の方まで歩き、寄りかかりました。
モーヴェはされるまま身動きもせずにいます。

 --モーヴェ。裏切り者! いい気味だわ! 私は王座を捨てた女よ。 父の後を取りたいなら、勝手に話し合いで決めればよかったのに。こんな大げさなことになってしまった。馬鹿竜。夫に何かあったら殺してやるからね--

--姫様。申し訳ありません。だまされたのです。竜の珠がこんな事に悪用されるとは思いませんでした。
ただ、あれを持って来れば力をくれると、竜王のような魔法を使える力をくれると約束したのです。
我は竜王国を再興したかった。古の竜王国を......--

--お前の野心にはうんざりするわ、モーヴェ! その昔の竜王国に何があったか知りもしないくせに!
我等は古の神の栄養剤代わりだったのよ! 第三の目を持っていた多くの竜は竜の珠を取る為に殺されたの! 大虐殺よ。賢き我等がご先祖様が魔法で第三の目を封印した時から、第三の目はめったに現れなくなった。だからこそ、今まで生き残れたというのに。お前は余計なことを......--

「女よ! お前は誰だ? 竜と話せるのか? 」

 オムファムが不思議そうに尋ねました。泣き叫んで逃げ回り食いちぎられる姿を期待していたオムファムはあてがはずれ、女が恐れもせずに立ち上がって、竜の顔に寄りかかったのを見て驚いた様子です。
 急に、オムファムの目が白目をむき口が勝手に動きました。表情が変わっています。

「いいや・・・。オムファム。その女こそ竜の珠の持ち主よ。」
 
「オムファム。その女も儀式に参加させるのだ! 自分から飛び込んでくるとは幸運なことよの。
その女は役に立つ。最高の供物じゃよ。」
 
 言い終わると、はっと!我に返ったような顔をして、オムファムは青い顔をしました。

「アイ-ル。 その女を地下牢につないでおけ......。儀式の時に連れてくるように」
「ジュダ! 余興は終わりじゃ。我は疲れた。少しやすむぞ! 」

 そそくさと大臣を従えて、オムファムが部屋を出て行きました。
 アイールは竜に近づくのを恐れ、もたもたと様子を見ていました。

--やつは恐れたのよ。自分に寄生する主の力を....。そろそろ、制御出来なくなっている。自分が中から食い荒らされる前に、我に寄生主を移してしまいたいんだろう--

 モーヴェが言いました。

--メテオール! 私は大丈夫だから、竜の珠を取り返して! 竜の珠は生贄の間にあるはず。
今夜の儀式でモーヴェに無理やり入れるつもりよ。でも、そんなことしたら死んでしまう.....。
それに、モーヴェの体が珠の力に耐えられたとしても、闇の神が入ってしまったら....この世は終わるわ。
対抗する力が無いの。昔の神々は皆死に掛けているから--

--分かった。二人とも待っていて。珠を取り返したら必ず救出するからね。シュルシュ。これを...--

メテオールはシュルシュにそっと近づくと、ドレスの胸の間に、マーフォークの杖を入れました。

--これはプレーリーにもらった水杖だよ。使う時はリクドフォールって言えばいいよ--

--でも、私。魔法の力は無いのよ--

--いいから、もって行って。お守りだと思えばいい--

 アイールがやっとこさ、女をつないでいる綱の端をつかんでひっぱると、

「来い、女! ご主人様のお言いつけだ。お前は地下牢だとさ。 ヴォレの餌より恐ろしい運命が待ってるぞ! 午前0時に儀式は始まる。それまで大人しく待っていろ! 」

 そう言って、乱暴に引き立てました。
 グワルルル!
 モーヴェが吼えるのと、メテオールが飛び出しそうになるのを、小さく首を振り目で静止して、シュルシュは大人しく引き立てられて行きました。
 行ってしまうと、モーヴェと2人きりです。

--約束してくれるかい? モーヴェ。これから僕は君を自由にしてあげるよ。
でも、儀式に出るまでは囚われている振りをして欲しい。
逃げても駄目だ! 分かったかい? --

 モーヴェは顔を上げ、見えない相手を凝視しようとしました。

--俺を信用するのか? --

--もちろんだとも! --

 答えるとメテオールは杖を掲げ、魔法の言葉をつぶやきました。
 「解け縛めの鎖よ。心と体。シュルヴヴールデファン!」
 モーヴェは体中に掛かっていた重りがはずれたように感じました。頭も、体も爽快です。眠くて気だるい感じが無くなり、今すぐに空に飛び立ちたいと翼の筋肉がぴくぴく動くほどでした。
 竜本来の闘争心も蘇って来たようです。

「それで。我は何をする。手伝うぞ! 」
 見違えたように生き生きとした表情で、モーヴェが言いました。

「嫌。まだ何もせず、囚われた振りをしていてくれ。君が必要な時は合図するから。
それに、もし、私に何かあったときはシュルシュを連れて逃げてくれ。約束だ! 」

 モーヴェはうなづきました。それから、試すように人間の姿になり竜の鎖から自由になりました。

「メテオール。礼を言うぞ! さあ。行くが良い! 我はここに残り、獣の振りをする。 竜族は約束をたがえない」

 メテオールは振り返らずにその部屋を出て行きました。
モーヴェが獣の姿に戻り、ガシャンと鎖の音が聞こえました。
 生贄の間に急ぎます。儀式まで、あと一時間ほどです......。

.......................続く。..........................
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by emeraldm | 2010-09-11 12:11 | 小説- 赤髪のメテオール(2)

突然の乳癌ステージ4の告知から人生計画が変わってしまったRUBYのブログです。少しでも誰かの役に立てるように、闘病生活を綴ります。

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