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rubyの好きなこと日記

NO27。......オンブル城......

 海が近づくにつれ、潮の香りが強くなり、心地よい風が髪をなでました。
 黒馬車の運転席に座っているメテオールは、馬車の中に座っている二人の会話は分かりません。
 しゃんしゃんと鈴の音を鳴らし、黒馬車は進んで行きます。
 城を出てから20分ほどだったでしょうか?
 目の前に海岸が見えて来ました。夜の海は波も静で、満点の星と月明かりの明るい夜でした。
 ところが、ちょうど満月の真下。海と空の境目辺りに、大きな黒々としたものがありました。
 山のようでもあり、建物のようでもあり、不定形な生き物のようでもあり。
 不思議なことに、その何かに向かって、月の光が海岸とつなぐ道のようにかかっています。
 少し歩きにくそうに黒馬車の馬達は海岸を並足で月の道までたどり着き、それから何事も無かったようにトコトコと月の道に乗りました。月の道は金色の光線で出来ていてキラキラと輝き、少し透き通っています。
 ちょうど海水の真上を浮遊しているようです。
 黒馬車はしゃんしゃんと音を立てながら、黒い大きな物の入り口へと走り出しました。

--あれが、やつらの本拠地だな。
幽明のあわいで見た山脈にとてもよく似ている。--
 
 メテオールは思いました。
しばらくして、入り口にたどり着きました。やはり、山ではなく建物のようです。
しかし、この建物は巨大な黒いぬめぬめとした生物の様でもあり、入り口の扉は黒いボディと赤い触手のイソギンチャクのように見えました。馬車が近づいて行くと、蛸の皮膚のような薄赤い幕が開き、馬車は飲み込まれるように中に入りました。
 中は短い通路のようになっていて、ぬれて赤く細長い触手がボディチェックのように馬車をなでています。
 メテオールはなるべくこの気持ち悪い物に触らないよう身を縮めてやり過ごしました。
 馬は慣れているのでしょう、別段騒がずに吐き出されるように広間へと抜けて行きました。
 広間は明るく、ドーム状になっていました。外と違いつるつるの大理石で作られているようでした。
 馬が止まり、中からジュダ大臣とオムファムが現れました。

 「しかし。公爵があそこに現れるとは誤算でした」
 ジュダがしょぼくれた様子で言いました。
「何度も言っているだろう? 人の考えに及ばぬことをオプスキュリテは考えるのよ。
 神を信じよ! 」
「はい。オムファム様。けれど、今宵の計画がすべて台無しに......」
「いや。ジュダよ! 全て順調。思っていたより順調じゃ......。
ところで、今宵の祭典に信者はどのくらい来ておるか?ジュダ! 」
「そうですな。200人ほどでしょうか?外国からの客人も来ています」
「そうか、それでは生贄の間に集めておけ、午前0時に儀式を始める」
「ははっ! 」
「ジュダ。それではヴォレの様子を見に行こうではないか! 腹をすかせているかもしれないしな。今宵は大切な儀式前、生餌を振舞おうぞ!儀式までの余興じゃ、そなたも楽しめ。ふふふ  」

 ジュダとオムファムが歩き出すと、その後ろをメテオールは付いて行きました。
--ヴォレ?竜がいるのか? --
 メテオールにとって竜は特別な存在です。メテオールの妻は竜族の出身。今は魔法の力もなく、獣の姿も取れませんが、昔は力のある竜王の娘でした。訳けあって第三の目を竜王に預け、メテオールの元に嫁いだのです。その、妻の第三の目。竜の珠が何者かに盗まれ、オムファムの力となっているようです。
 竜の珠は世界を破滅させるほどの力を持つと言われ、黒魔術師の手にあるとなると、これほど危険なことはありません。竜の珠の奪還が、メテオールの最優先事項でした。

 やがて、厳重な分厚い扉の部屋に付きました。
中から小さなせむしの老人が出てきました。陰険な目をしています。

「アイール。愛しのヴォレは大人しくしていたか? 」
「はい! オムファム様。今日は逆らいもせず、一日中寝ていました」
「そうか? 観念したのかの? どれ。 様子をみてやろう! 」
2人に続き、メテオールが入っていくと、大きな部屋にいっぱいの体。大竜です。
小山のように大きく、黒いボディ。大きなつやつやとした革張りの翼。体中にある細かい古傷。
間違いようも無く、モーヴェです!
モーヴェは眠っているように目を閉じていて。首と手足には鉄の枷をかけられ、体中に鎖が何十にも巻いてありました。

--盗人はモーヴェ--

 石盤の文字が浮かびます。いったいなんで?メテオールは驚きでいっぱいでした。
 メテオールの懐の杖がプルプルと震えました。

--助けてくれ! 力がでない! 操られている--

 メテオールの頭の中に声が響きました。どうやら杖を通してモーヴェの声が聞こえるようです。
 こちらからは話せないのかな?メテオールは杖を握り締め念じました。
 モーヴェに伝えて。

--助けに来たよ。待っていて--
 
 モーヴェが薄く片目を開けました。

--どこにいるんだ?--

--ここ。すぐそばだ。透明帽子を被っているから。--

 メテオールはつかつかとモーヴェの側に行き、その前足に触りました。
 少し驚いたようにモーヴェは身じろぎしました。

--しっ! やつらに気付かれないように...。僕は側にいるよ。チャンスを見て必ず助け出すからね。--

--その声はメテオールか?--

--そうだ。助けに来た。竜の珠はどこだい?--

--なぜ。俺を助ける? 俺は竜の珠を盗んだ。当然の報いだ。貴様に助けてもらういわれは無い。--

--モーヴェ? なぜ盗んだ? 竜族の掟を知っているだろう? --

 グワルルッ!
 いきなり、モーヴェの目ががっと開き、咆哮をあげました。

「お目覚めのようだな? 」
 オムファムが優しい口調で話しかけた。
「タフな体よ。すばらしい! 今夜、お前との契約を精算しようではないか? 
あの珠と引き換えにお前が望んだもの。ちっぽけな竜王どころではないぞ!
お前は世界を統べる救世主としてあがめられるのよ。オプスキュリテの乗り物としてな。
闇の帝王。オプスキュリテの復活よ!竜の体。強い魔力。そうして闇の精神。
何千年の昔から待っていた復活の供物が今夜全てそろう!
光栄に思え。もっとも、必要なのは体だけだがな! 」

 オムファムの目が憎しみを込めた光を宿しました。
「ああ。それからやつらの悲嘆を聞くだろう! 我にとっては永遠の子守唄。
今から聞こえてくるぞ! 嘆き、悲しみ、のた打ち回るがよい!
人間どもよ。我は今宵オムファムにあらず! ラシャ神となって、オプスキュリテの右の座に座るのよ。
永遠に、闇の世界の王として......。
さあ。食事じゃ。アイール、ヴォレに生餌を持っておいで」

せむしの老人アイールは誰かを綱で引いて現れました。

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.................続く。..........................
by emeraldm | 2010-09-10 12:27 | 小説- 赤髪のメテオール(2)

突然の乳癌ステージ4の告知から人生計画が変わってしまったRUBYのブログです。少しでも誰かの役に立てるように、闘病生活を綴ります。

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