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rubyの好きなこと日記

NO17。......王城......

 
 だいぶ夜が更けた頃。月明かりに照らされて、エムロード商店街を抜けてぺルル通りを北に抜ける道を一頭の白馬が駆け抜けて行きました。
 乗り手は見当たりません。白馬は飛ぶような勢いで、山の手にある、ル・シーニュ城へと疾走して行きます。 小さな丘を抜け、ものの数分でル・シーニュ城の堀端についた白馬は、ひとりでに速度を緩め、やがて立ち止まりました。
「よし! ラファル。ここで待っていて! 僕が明け方までに戻らなかったら、プレーリーの家に一人で戻るんだよ。わかったね。 」
 白馬のすぐ傍で声がしました。
 堀の回りは小さな森のようになっていて、ラファルが隠れる場所には不自由しません。
 白馬は、ぶるるっ!っと、鼻を鳴らし返事をしました。
「いい子だ!」
 メテオールはプレーリーの父親の透明帽子を身につけて、姿形は見えません。別段ラファルも気にしていない様子でいつもと同じく鼻面をなでられ、気持ちよさそうに目を細めました。
「さて......。すでに真夜中近いからな。跳ね橋は閉じられているし、魔法のほうきは置いてきてしまったし。どうやって城に入ろうか? 」
 メテオールは、水の並々と入った堀を見下ろして考えました。
「あ。そうでした! 水杖があったな。さっそく試してみるか? リクドフォール! 割れよ! 」
 メテオールが唱えると、堀の水がざざざ~っと真っ二つに割れ、堀底に人一人通れる位の狭い道が現れました。左右は暗い色の堀の水が壁になり切り立っています。その水の壁に月の光がゆらゆらと揺らいでいました。
「プレーリー! ナイース! 」
 そう言うと、メテオールはためらいもせず、堀に飛び込み、堀底の道を歩きました。堀底はつるつるして足を滑らせます。メテオールはなんとか向こう側にたどり着き、マーフォークの杖を再び使い、水を元に戻しました。
リクドフォール! 元にもどれ。 」
 水はざざざ~っと流れ出し、来た道を埋めました。
「それにしても、簡単すぎるな? 守りの魔法が効いていない? おかしいな......。」
 堀には通常クロックという怪魚が放されています。怪魚は獰猛で、堀を無理やり渡る者があれば、襲ってくるはずです。 もしかしたら、メテオールの姿が見えなかったからかもしれませんが、考えていても仕方ないので早速お城に入ることにしました。
 トントン! トントン! 跳ね橋の隣にある木のドアを叩きました。ここは門番の出入り口です。
「何者か? 」
 中から鋭い詰問の声が上がりました。すでに跳ね橋の上がってしまった、こんな時間に尋ねてくる者は不審者に決まってます!
 トントン! トントン! 又音がしました。
「おい! お前。覗いて来い!」
 えばった声が命令すると、ぎ~~っと木の扉が薄く開き、最初に槍の先が、続いて頭が出てきました。兵士はくるりと周りを見回し、又、そろーっと木戸を閉めました。
「先輩! 誰もいませんでした! 」
 心もとない声です。
「そんな馬鹿なこと無いだろう! 確かにノックが聞こえたぞ! おめえはビビリやだからな。よし! 来い! 俺様が見てやる! 」
 2人の兵士は、今度は勢い良く扉を開け、バラバラと外に飛び出しました。
「何奴! 隠れても無駄だぞ! どこにおる? 」
 メテオールはその隙にやすやすと城内に入り込みました。メテオールが2人の兵士を面白がって見ていると、やがてあきらめたのか、2人とも青い顔をして、こちら側に引き返して、扉を厳重に閉めました。2人ともぶるぶる震えています。
「た、確かにお前も聞いたよな。気味が悪い......。最近変なことが起こりすぎる。魔法だの、幽霊だの。クラージュ様は死に掛けているって言うし。縁起でもねえ」
 先輩と呼ばれていた兵士は持ち場に戻り、携帯用の水筒からブランデーをグビリ、グビリと飲み始めました。
「だから、夜警は嫌なんだ! 幽霊だか魔女だか知らんが、俺はえたいの知れない奴がでぇ嫌ぇだ! 今夜もあの気持ち悪い女医が来ただろう。そうしたら又変な事が起こった! ジュダ大臣の親族でなけりゃ誰があの女を入れてやるもんか。よお! お前。 俺の替わりに警戒しとけよ! おりゃあもう酔っ払うからな! こんな夜は酔っ払いが一番さ! 」
「そんな~。先輩! 俺を一人にしないで下さいよぉ。怖いですよぉ。」
 小さい声で情けなく若い兵士が言っているのを聞くと、メテオールは城の階段を、音も立てづに昇り始めました。
 クラージュ大帝の寝室なら良く知っています。メテオールはクラージュ大帝の魔法学校の先生でした。それに秘密任務の為、クラージュの父ディユに呼ばれて、何度も城に出入りしています。教え子のクラージュが病気と聞き、メテオールは心配でたまりませんでした。
 
 やがて、クラージュの寝室の扉の前で、中から誰かのひそひそ声が聞こえました。
「おお。もうすぐじゃの。だいぶいい感じにしおれてきたわい! 」
「オムファム様......。私は怖くて仕方がありません。王族を手にかけるとは、やはり間違っているのでは......。」
「どうした! ジュダよ。臆病風に吹かれたか? オプスキュリテの御前で誓ったのじゃろう? お前はすでにオプスキュリテの供物よ。逆らうことは許されぬ」
「しかし......。クラージュさまは我息子と同い年。あまりに......」
「ジュダよ! そのお前の息子の為にお前は王権を求めたのではなかったか? クラージュが死ねばこの国はお前たち親子の物よ。それに、クラージュは永遠の栄光を得るのじゃ。哀れむことはない」
「......御意! オムファム様 」
「さて、我等はそろそろ集会に行かねばならんの。明日の晩は上等の供物が手に入りそうじゃ。
黒き翼は繊細なのじゃ。儀式を絶やすわけには行かない。そろそろ腹をすかせ始めているからな。ここのところ、ろくな供物も無かったが明日の晩には満足してくれようぞ! しばらくの間はな。ふふふ」
部屋の扉がギーと開き、中から中年の大臣と白い衣の僧侶のような身なりの背の高い女性が出てきました。女性の顔は厚化粧で、真っ赤なルージュを引いています。魔法使いの瞑想中に見た、あの僧侶でした。

--犯人はオンブル教。首謀者。オムファム。誠の名はラシャ。凶悪犯。危険。魔法使い。大勢殺される。気を付けよ。やつは竜の珠を持っている。-- 
 
 石盤の光る文字が目に浮かびました。
すれ違いざまに、オムファムがこちらを見た気がしましたが、すぐに目をそらして、2人は廊下を歩いて行ってしまいました。
 メテオールは急いで部屋に入り、ベットの上を見ると、誰かが布を被って寝ているようです。そおっとその布をのけました。
 そこには、骸骨のようにすっかりやせ衰え、どすぐろい肌のクラージュがいました。
 すでに意識が無いのか?黒く落ち窪んだ目蓋は閉じています。
 美しかった姿の影も無く、死の影がそこまで来ていました。
 急いでクラージュの脈を取り、口に耳を付けて息をしているか確認しました。
 どうにか息はあるようです。口元ではうわ言のようにぶつぶつと小さな声でつぶやいていました。

「竜の珠に気をつけて。先生......。」
 
 メテオールはすぐさま着ているマントを脱ぎ、クラージュを包んでから、魔法の眠りの呪文を唱えました。クラージュの衰弱は激しく、このままでは本当に死んでしまいます。
 魔法の眠りだけが、死を引き止める事が出来るのです。
 それから、そっと門の方に引き返し、ジュダ大臣とオムファムが跳ね橋をかけさせ出て行くのを確かめました。十分に時間を取り、彼らが引き返してこなくなるのを確認してから、クラージュの部屋に舞い戻り、窓を開けて眠っているクラージュの包みを窓辺に置いて、ベットの上に自分の杖で呪文をかけました。
ラミラージュ! クラージュの似姿よ、いでよ! 」
 ベットの上にはクラージュのミイラのような寝姿が現れました。かすかに震えています。これなら再びオムファムが来るまでに十分な時間が稼げるでしょう。
 それから、又窓辺に取って返し、クラージュの包みを抱き上げると、マーフォークの杖を取り出し、城の周りの堀の水に命令しました。
リクドフォール! 堀の水よ。橋になれ! 
 クラージュの部屋の窓辺から、堀の外まで、大きな美しい水橋が出来たのに気付いたのはあの若い方の門番でした。先輩門番は酔っ払って寝ていたし、今夜は怯えてばかりいたので、若い門番はぶるぶると震えて見て見ぬ振りを決め込みました。これ以上不気味なことを認めたくなかったのです。
「俺はしらんぞ~ぉ。何にも見てないぞ~ぉ。俺もウィスキー飲もう! 酔っ払ってなきゃ。やっちゃいられないよぉ! 」
 この門番が見て見ぬふりをしなければ、もっとおかしなことに気付いたでしょう。
 人の入れるほどの包みが、水橋の上をぶらぶらと飛んでいたのですから。
 しかし、この若者は臆病で、それ以上。水橋を見続けることは出来ませんでした。
 やがて、バシャン! と大きな音を立てて、水橋の水が堀に戻っても、若者は振り向かず! 急いでウィスキーをグビグビと飲み込むだけでした。
 
.....................続く。....................
 







 






 
by emeraldm | 2010-09-01 13:18 | 小説- 赤髪のメテオール(2)

突然の乳癌ステージ4の告知から人生計画が変わってしまったRUBYのブログです。少しでも誰かの役に立てるように、闘病生活を綴ります。

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