2010年 08月 26日
NO11。......国際魔術連盟......
ルミエールは半日がかりでドルミール山の山頂まで飛んで来ました。
「やはり、自分のほうきが一番じゃな。息子のは柄が細すぎるし、小回りが効かん! 」
ぶつぶつとつぶやきながら、山頂から下を見下ろしました。
ルミエールはメテオールの父親で、同じ赤髪。てっぺんはすでに薄くなっており、ラ.ベリテ魔法学校の校長先生をしています。お顔は丸顔で、赤みを帯びただんごっぱな。眉毛はげじげじの赤毛。でっぷりとしたお腹はマントでもかくせず。でもその瞳は優しく薄いブルーに輝いていました。
魔法学校の生徒は、彼のことを親愛を込めて、「おひかりさま」と呼んでいます。生徒には寛容でとても人気がありました。
外見は赤髪以外、メテオールに似ているところはありませんが、(メテオールは母親似です。)かつてはメテオールと同じくらいの力を持っていた大魔法使い。てっぺんがはげ始めたころから、段々魔法の力も弱ってきたのですけれど。
ドルミール山は休火山で、山頂は大きなすり鉢状をしています。上からは見えないくらい火口の底は深く、その火口の底に向かって、ルミエールは真っ直ぐに急下降して行きました。
「アルジャン。アルジャン。おるか~? 」
ルミエールは暗い火口の底に降り立ち、大声を出しました。
「誰じゃ? ドルミールの眠りを覚ますのは? 呪われるぞい! 」
野太い声が答えると、煤けた人間のような者が影から立ち現れました。良く見ると、魔法使いの正装。銀色のトーガを着ていますが、どこと無く薄汚れ、アルジャンと呼ばれた者の顔もすすで汚れていました。年齢はルミエールと同じくらいか、もっと上と言ったところでしょうか?やせてつやの無い青白い肌と、とがったアゴ。
髪の毛は見事な長い銀髪で、これまた洗っていないようです。
「おお! ルミエールじゃないか! しばらくぶりじゃのう。確かお前さんの息子の結婚式以来じゃな」
アルジャンはニヤッと薄気味悪く笑いました。目の色は灰色で、古い竜を思わせます。
「アルジャン! 風呂。入ってないじゃろ。くさいぞ! まあいい。休ませろや。昨晩からこっち、休憩無しでほうきを飛ばしてきたからな。つかれとるのじゃ」
「はいはい! 相変わらずお前さんはマイペースじゃな。よし、来た! パレ!」
暗い火口の底がパッと明るくなり、底には大理石で出来た宮殿の居間が出現しました。白に灰色のマーブル模様の大きなテーブルセットの上には、ありとあらゆる果物や色々な種類のプチケーキが並べられ、思いつく限りの飲み物も乗っていました。
「どうぞ! 」
アルジャンは言うと自分から先に席に座り、手前にあった椰子酒のコップに手を伸ばしました。
よっこらしょ。と、ルミエールも向かい側に座り、濃いぶどう酒をぐびりと飲むと、すっと気分が軽くなり疲れも癒えるようです。それじゃ、ケーキもと、苔桃のプチケーキをほおばると、新鮮な甘い香りが鼻を抜けて、じゅっと汁が口の中に広がり、思わずおおっと声を上げてしまいました。
「うまいな! 」
「んで、何じゃ? 用事があったんじゃろ。お前さんがここまで来るとはよっぽどの事じゃろな。いつもは呼びつけるからな」
アルジャンはじろっとルミエールを見ました。
「おお。そうじゃ。うちの孫のクレアが襲われての。黒い大蛇じゃ。しかも、ラ.ベリテの建物の中でじゃよ。クレアのぬいぐるみに息子が魔法をかけておってすんでのところで助かったが、ラ.ベリテの守護の魔法を破るからには、大魔法使い以外考えられんのじゃがの? 調査を依頼して良いかの? アルジャン! 」
「ほお! ラ.ベリテの魔法が破られた! それは見捨てておけんな。お主。しばらくここに留まれんか?国際魔術連盟の委員会に調査を依頼せねばならん。お孫さんはどうしておる? 我々の保護が必要かの? 」
「嫌、アルジャン! 孫はお前さんたちよりも安心して預けられるところに預けたよ。何しろ、これ以上いたずらになったらしょうがないのでな。アル! 」
アルジャンはにやっと笑いました。アルジャンとルミエールはラ.ベリテの同級生。遠い昔からの親友でした。
その頃からアルジャンの魔法の才能はすばらしく、ルミエールと首席の座を争っていましたが、何よりも変わり者で風呂嫌い。おまけに悪戯が大好きで、殆どの魔法の研究は悪戯の発明という人間でした。ルミエールはそんなアルジャンに一目置いていたし、アルジャンも人の良いルミエールが好きでした。彼らはラ、ベリテの二人組みと言う名前で、その他の魔法学校の生徒には有名な二人でした。赤のルミと銀のアル。当時の魔法学校の生徒たちは口々に言ったものです。
「又、なんかやらかしたらしいぜ。ラ.ベリテの二人組みがさ! 」
その銀のアル。小汚いちび小僧の魔法使いが、国際魔術連盟に就職し、あれよあれよと言う間に出世したのにはルミエールも驚きました。なにしろ今は国際魔術連盟の一番偉い人、長官です。
つまり、アルの知らない魔法使いはこの世にはいないはず。正式な免許を持っていればの話ですが......。
「ルミ。ちょっと待っておれ! ラ.ベリテの守護の魔法を破れる位の魔法使いのリストを持ってこさせよう。そして、お孫さんを狙う理由がありそうなヤツをじゃな。黒い大蛇を使ったと言ったな。大方、闇の魔術じゃろうが、それだけの力を持っていて我々の操作網にかからんヤツはいないはずじゃからな」
「すまん! アル。休暇中に悪いのお」
「いいんじゃよ。どっちみちお呼びがかかっていたんじゃからな。サージュ王国にオンブル教って言う魔術教団が流行りおってな、どうやら国際魔術連盟も黙っていられぬ勢いになって来たようじゃ。わしのお膝元じゃからな。休んでもおれないのじゃ。これから会議なんじゃが、お前さんも同席するかい! お孫さんの事もそこで話し合おう」
「おお。それは嬉しいぞ!一度その会議に出席して見たかったのじゃ」
「ほんとか? ルミ。お前さんさえよければいつでも委員会の席を空けておくぞ! まあ、全は急げじゃな。さっそく会議をひらくとするか? 」
「どこで? 」
「ここで。」
言うが早いか、アルジャンは水晶で出来た輝く杖を取り出し。(杖は汚れていなかった。)
「オ~シュランプ、ハルバラ~ルルプパッド! 」
と、呪文を唱えました。突然、4人の魔法使いと1人の秘書が現れました。
「オール、フェ-ル、プラティーヌ、ロッシュ。突然悪いな呼び出して。会議じゃ」
アルジャンは4人の魔法使いをそれぞれに座らせ、秘書は自分の元へと手招きしました。
国際魔法会議の開幕です。
..................続く。........................
by emeraldm
| 2010-08-26 16:35
| 小説- 赤髪のメテオール(2)